January
あらわれるところに風雲あり、とくればルパン三世のようだが、その奔放さにおいてルパンをしのぐ山田康雄が、舞台、声優につづいて、ついに文筆の分野に進出!!
もうとめることは出来ない
「アニメージュに随筆みたいなも の書かない?」 「ああいいよ。」 生来、オッチョコチョイなオレ は深く考えもしないでうっかり答 えちゃった。いずれにしても、ま だ先のことだと思って遊びほうけ ていたら、12月号に予告はのっち ゃうし、そろそろ〆切り日ですよ と編集部から催促。 小さな親切、大きなお世話だ。 舞台の初日というのは一抹の不 安はあるものの、なんともはなや 待ち遠しいものだ。それにく らべて、〆切り日というのはいや なひびきの言葉だ。 夢の中に出て くる意地悪な悪魔のように、重苦 しく胸にのしかかってくる。その うえ「期待してます」なんてダメ 押しのひとこと。 芝居ならともかく、モノ書くの に期待されてたまるか! 期待に こたえるようなもの書けるなら作 家になってらあ! ナンテ、一人 怒り狂ってもあとの祭り、ゴマ メの歯ギシリ。レールは敷かれち やった。いまや走り出すしかない のだ。 動き出した。もうだれにも止め ることはできない。コンボイ(古い んだよ)。 よおし、こうなったら恥をかか てやろう。恥かくのならなれてい る。役者なんて見世物稼業やって んだから 最近、TVに出ている人間をや たら文化人扱いするヘンな風潮が あるが、役者なんて本来、見世物 なんだ。源流をたどれば遊女など と姻戚関係にあるんだから。 マ、それはともかく、人間なに かはじめるときはよおく考えてか らにすべきだよナ。
早い新年号に八つ当たり
それにしても、なんでいまごろ、 新年号が出なきゃならないんだ? キュートな女の子と、こっそり すごすはずのホワイト・クリスマ スも、年に一度だけ手伝うわが家 の大掃除 といっても窓ガラス ふきだけだけど も、まだずっ と先だというのに、正月号だって よ。どう、書きゃあいいんだ。 たしかに、オレは正月番組のV TRもすでに撮った。録音も何本 か録った。でも、それは本当にホ ントの正月に放送されるのだ。 オレたちは商売だから、真冬に 水着姿で撮影もするし、夏のさな かにオーバーのえりを立てた芝居 もする。紅葉の美しいころに、平 気でアケマシテオメデトウなんて いっている。雑誌だって、正月号 の編集を12月のうちにやるのはシ ゴクあたりまえの話だ。 でも、まだ12月の上旬だという のに、金ピカ表紙の新年特大号が 本屋の店頭に並ぶのは、な んともシラジラしい風景だ と思わないか? オレの子どものころ にも、数はきわめて少 ないが、少年少女用の雑誌はあっ た。 正月号はもちろん、暮れのうち に店頭を飾った。表紙も金ピカで はなかったが、羽子板や凧の絵が 描かれていて、それなりにはなや かなふんい気だった。そしてそれ を買ってもらうのは、輪かざりを 買いにいった帰りとか、大みそか の大掃除がすんだあと。 双六やカルタなどの付録でふく らみ、十文字にヒモでくくられた その新年号、すぐにでも開けて見 たいのをじっとガマンして元日の 朝を待った記憶がある。ケジメが あったというと古くさいと思われ るかもしれないが、ユメがあった のは事実だ。 何だかテメエが原稿書けないモ ドカシサをなにあげて八ツ当た りしてるみたいだがこうなりゃ、 トコトン八ツ当たりしちゃおうか しら。 本当なら、いまごろは六本木か 青山あたりでもういいご機嫌にな っている時間なんだ。もしかした ら、セクシーな女の子とめぐり逢 っているかもしれないというのに、 なんだかすごくソンしているみたい。
青二プロのゴルフコンペ
と、ここまで書いたところで一 日、中断した。なにをかくそう、 ゴルフに行って来たのだ。 はじめ たのならオイデよと誘われて、ご 存じ「青二プロ」の主催する コンペに参加した。3回とい う歴史あるコンペだ。 富士山麓の足柄森林という コースに朝早くから集まった 顔ぶれは、中西妙子、小原乃 梨子両美女を筆頭に、八奈見 乗児、柴田秀勝、矢田耕司、 肝付兼太、 加藤修、金内吉男、 北川国彦、 はせさん治、野田圭一 山田俊司、緒方賢一のメンメン。 本誌愛読者なら、すでにおなじ みのメンバーがこれだけ東京を留 守にしたのでは、アニメの録音が 1~2本中止になったのではと心 配になるくらい。 加うるに、業界ナンバーワンと うわさの高い華麗なゴルファー中 村正、豪快小林修、オレと相棒・ 小林清志、竹尾智晴あらため中尾 隆聖、さらにマスコミ関係のゲス もにぎやかに総勢26名。 きょうはルパンと次元が来てい るから賞品には気をつけようぜと いう全員の警戒と努力もむなしく、 オレ236位、次元36位。 ヌフフフフ。 猛練習でてのひらの豆をつぶし、 おまけに二日酔いで精彩のなか 清志はともかく、練習ぎらいの オレ舌戦なら負けないんだが、技 術が極端にともなわないのだ。 これだけはほしかった珍プレー 賞も肝付兼太にゆずり、参加賞だ けもらって帰って来た。 次 回から、ぜひベスト・ドレ ッサー賞を出してくれ。オ レ、しっかりと狙うから。 BY THE WAY のフレーズが若い人のあ やっているのかね、ファンレター にやたらと出てくるのだ。オレ、 早稲田の英文科。 BY THE WAY のコンペで、小原乃梨子夫妻が同 スコアで優勝と準優勝をかっさら ったのだ。もちろん夫唱婦随。 じつは優勝者の戸部信一はオレ の無二の親友、オレにむりやりゴ ルフを教えた人。つまりこのご夫 婦は、いわばオレの師匠筋にあた 人たちなのだ。したがって即祝 杯。結果、原稿1日のばし。 閑話休題。何のハナシだっけ? そうだ、早すぎる新年号に腹を立 てていたんだっけ。 昔から、一年の計は元旦にあり、 という。オレは信念をもって生き ているわけじゃなし、自由とチャ ランポランをこよなく愛している から一年の計なんてもちろん立て ない。 自由とチャランポラン はまったくべつものだぞ。ゴッチ ャにしないでほしい。 だが、若いきみたちは一年の計 を立てなさい。元旦に。夢を描き なさい、一生懸命。 夢を失うことよりも、夢を心に 描けないことのほうが、よほどみ じめだ。 これが、きみたちへのオレの新 年のあいさつ。 GOOD DAY、GOOD YEAR! (つづく)
February
ところかわれど品かわらず、タマゴに白味はつきものだが、こんな白味があるものかと、ついにルパンの怒りが爆発!! ルパンの怒りにくらぶれば、煙はうすし桜島山….まずはその流麗な筆致をごらんあれ!!
ものは順にいっているだけ まったくアッというまに一ヶ月がたってしまって、またまたブルーな日々がやって来た。オレの生活に新しく加わった月に一度のブルーデー。そういえばきのう、変なところでひょっこり研ナオコに出会ったっけ。アニメージュよ、まだオアツイのがお好き!?TVアニメはいまや花ざかり。まあ、そのおかげで食えるようになった役者もいるし、比較的陽の当たらなかった声の仕事にもスポットがあたるようになったのだから、それなりの功績もあるのだが、何事にも表裏はつきもの。アニメのぼやい、功罪なかばすというよりは罪がはるかに優位というのがどうやら実情のようだ。オレ、あんまりアニメやらない人正確にはやらしてもらえない人だから、よくはわからない。熱狂的なファンの方がアニメのメカニズムや実体にくわしく、オレなんざほんのアマチュア。でもとにかく八年前、旧ルパン三世のころには思いもよらなかっ事態が数多く出現していて、アレヨアレヨとオレおくれぎみ。何といってもその筆頭は「白味」だ。白味といったってタマゴじゃない。録音の日までに画が間に合わないことをいう。ブームになれば制作本数がふえる。本数がふえりゃ優秀なスタッフが分散する。分散すれば質的にレベルは低下する。質的にも量的にも補充しようったって、才能というのはそんな簡単に育つものじゃない。そこで「白「味」の登場となる。モノは順にいっているだけのことだ。
白味は卵にあればいい! 台本をもらい、試写を見ていると画面から色が消える・・・・・・ナンテのは序ノ口、榊原郁恵かわいいもんだ。「線どり」とかいって、人物がフ*チドリだけで動き出す。透明人間でも動いているうちは、ピンクレディーに免じて許してやる。やがてストップモーション。基本的なデッサンだけが雑に描かれていて、将来、その口が動くはずの秒数だけ「セリフ」という字が出てくる。マンガによくある手法だ。コトバを線で囲んで、その一端がそれをしゃべっている人物の口のあたりにのびている、例のヤツだ。これ専門用語で「吹き出し」というのだそうだ。何が専門用語だ!何が吹き出しだ!もちろん、ニュアンスどころか表情すらわからない。オレたちは演技力を買われて来たのだろ?推理力を買われて来たつもりはないのだ。わかるかね、明智クン?飛躍と切り返しの早さが身上のルパンをこよなく愛するオレはも絶体絶命。ヘヤッテラレナイワすると今度は、突然、画面からすべてが消える。何も写らなくなる。スクリーンはただ白いのだ。シメタとばかり怠け者のオレは叫ぶ。中止か?!?!これがオレの甘いところ。故障でも中止でもない。ただ単に絵がまったくまに合わないというだけのこと。真打ち「白味」の登場だ。文字どおりシラケた画面にときおり、赤い線や黒い線がツツツーと走る。その線が画面に流れているあいだ、過不足なく、つまり長すぎもせず、短かすぎもせず、台本に書かれているセリフをいえとぬかしやがる。"ルパンさんは赤い線でお願いします"何の予告もなく、いきなり出てくる赤線にセリフが合わせられるか!だいいち、赤線は20年も昔に廃止になったんだバカ!そのせいかね、このごろの若い男はダラシナイというか、若い女の子に軽んじられ、オレたち中年がやたらともてるのだ。イヒヒヒヒ。マ、それはともかくあきれてて白味を見ていると、その線がグニャグニャになったりする。あれは何だ。画が描けないんなら線ぐらいまっすぐ引け、手を抜!ちがうんです。あのグニャグニのあいだは笑って下さい”もう、なにをかいわんやだ。悲しすぎてオカシクなっちゃう。ヌフフフフフ。いえ、まだいいんです。テストのときで"わかってら、バカ。マーボドーフにおぼれて死んでしまえ!歌詞だけ書いてあって作曲できてない譜面を渡されて歌えといわれたって歌えるか?フメンナサイ"とあやまるしかないだろう。白味なんてタマゴにだけあればいいのだ。
病気をすれば穴があく 「ルパン三世」はあまり白味が多いと録音を中止する。出演を拒否するのだ。白味のまま録音したセリフと、ニュアンスや長さのちがう画ができてきても、もうリテイクの時間的余裕はない。そのまま放送される。その場合、恥をかくのはオレたち役者だ。"なんだ、ヘタクソ"これで終わり!テメエでテメエの首をしめるような自殺行為をだれがするかってんだ。だから、ルパンは一本のストックもない。だれかが病気をすれば即放送に穴があく。すごくワガママに聞こえるかスルもしれないが、トンデモナイ。かなり、妥協はしているのだ。こんな録音状況がいまやこの業界では常識のようにまかり通るようになってしまったが、その責任の一端はそれを許した役者にもある。たしかに役者なんてすごく弱い立場。どうあがいてもオシャカさまのてのひらの中で暴れているスーパーモンキー孫悟空よ。これはいくら説明しても、たぶん、いや絶対に理解してもらえな世界のことだから書かないが、陰でブツブツいっているだけでは事態は好転しない。いまの世の中と同じで悪くなるばかりだ。たいしてウマクなくても、ソコソコ食えちゃう変テコリンな声の世界。もちろん、うまい人ははいて捨てるほどいるが、ぬくぬくと甘えていれば近い将来、シッペがえしをくうのは必至。とび抜けて腹の立つのは、白味だらけの画面で一発OKの録音をしたとき白味だらけでOKを出すディレクターも大したもんというか立派だが――同業者に〝さすが"神ワザ”なんていわれることだ。*皮肉やジョークでいえる人の場合はいい。現在の役者軽視の録音状況をしかたのないこと、あたりまえのことと受けとめてしまっている若い役者のなかには、悪条件下でスンナリOKされる芝居(もはや芝居とはいえないが)のできることを、自分の卓越した技術と感ちがいし、うぬぼれ、得意がるバカもいる。ここんとこの虫歯の原因、ヤダネ~一曲唄って寝ましょうか。ヤスベエさま、ご気分は?もう、通りすぎました。
March
好きなだけじゃだめ"ユーちゃん"という友だちがい る。 いまをときめく作曲家で、フル ネームを大野雄二という。ルパン を通じて知りあった。 作曲だけじゃない。アレンジも するし、ジャズ・ピアニストとして も一流、とにかく才能あるミュー ジシャンだ。 ルパン三世、人間の証明、野性 の証明と、たてつづけにヒットを とばす売れっ子作曲家。 五線紙とのニラメッコで眠る時 間もままならないのに、どこでど う時間をやりくりするのか演奏活 動も忘れない。 同じ曲を演奏しても、手なれた 曲を演奏しても、その日その日で 少しずつちがったセンスをみせる ナマの演奏の魅力。 それが、ユーちゃんはたまらな く好きなんだろう。音楽がトコト 好きなんだろうな。 そしてオレは、音楽と芝居とい うちがいこそあれ、毎日少しずつ ちがった花を咲かせるたのしさに 魅せられて、舞台をやっているのだ。 人間、仕事をやるなら好きでな くちゃいけない。好きだというこ とは最大の武器だ。好きこそもの の上手なれ、ともいう。 ところが、プロの場合はそうは いかない。好きなだけじゃダメ。 才能がなくちゃ! どんなにいい人でも、みんなに 好かれる人でも、才能がなきゃダ オレたちの仕事って、ちょっと キザにいえば才能と才能のつきあ いなんだから---。
芸は盗みとるもの
先日、ユーちゃんが六本木のク ラブ、バランタインでピアノを弾 くというので、仕事をムリヤリ早 めに仕上げてかけつけた。 人気あるんだよ、ユーちゃんっ て。小さなお店だけど超満員、立 って待ってる人までいる。 サッポロラーメンの店じゃね えってんだ。 マ,しか,それも当然だろう。 サウンドはすばらしいし、テクニ ックは抜群、おまけに役者のオレ がジェラシー感じるほどの甘いマ スク。酒井俊のヴォーカルをフィ ーチャーしての大野雄二トリオ。 のりにのっていた。 久しぶりにシビレた。すてきな 夜だった。 オレも大学のころ、バンドでア ルバイトしたことがある。ベース だ。 といっても、いまのようなエレ キではもちろんない。ウッド・ベ ースだ。 といっても、ちゃんとした基礎 があるわけじゃなし、ズブのシロ ウト同然。とてもヒトサマにオレ はバンドマンよといえるようなシ ロモノじゃなかった。むずかしい 曲になるとバンド・マスターが「音 出すなよ」。弾いてるカッコだけし ていた。いわゆる「立ちんぼ」と いうやつだ。 さすが役者のマゴ。 いまはない新橋のキャバレー、 ショーボートで8ヵ月、これもい まはない五反田のダンスホール、 カサブランカで1ヵ月。 いまじゃとてもあり得ないこと だけど、当時オレは毎晩ステージ に立って、毎晩メンバーに迷惑を かけていた。 同じころ、銀座のアスターハウ スというクラブでキンキンこと愛 川欽也がタイコたたいていたこと のちに知った。 とにもかくにも、お金だけはも らっているんだし、音楽は好きだ ったし、うまくなりたかった。お ぼえたかった。 先輩に教えをこうと「あした、 30分早くオイデ」。よろこびいさん で出ていくと「Eマイナーでブル ースやってみな。ワン・トゥ・ス リー・ ・フォー」。メロディも何もな い、ただEマイナーのブルース。 それだけ。 おまけに、そのテンポの早いこ と。とてもじゃないけどダルマさ ん、手も足も出ないが、教わりた い一心でヨタヨタ弾きはじめる。 8小節もいかないうちに「ダメ だダメだ。レコードでも何でもい いから音楽もっと聞いてきな。じ や、また、あしたオイデ」。 まがりなりにも時間になれば客 の前で音出して金もらってるのに、 これだ。そのくり返しが何日つづ いたろう。 結局は何も教われず。 そのかわり、芸事は手とり足と り教わるものじゃない、盗みとる ものだということを教わった。そ のおかげかどうか、役者になって からも与えてもらおうと思ったこ とがない。
野良猫はなぜ太っているのか
バランタインのステージの合い 間にユーちゃんにその話をした。 ユーちゃんはオレよりまわり下 の世代だが、まったくそのとおり だと同意してくれた。 「人前で恥をかかされておぼえて きた。だから、若い人にもそうし ている。ステージを離れりゃべつ だけど、こと演奏に関してはスパ ルタ。ヘタすりゃモノぶつけるよ、 ケガしないようなもの選んで... いまの若い人は常に待っている。 与えられようとしている。たとえ それが自分を成長させる試練であ っても、みずから求めようとせず に与えられるのを待っている。 れじゃダメだ」 オレは気持ちよく酔った。 そ 野良ネコが太っているのは、い つ食えなくなる か知れないとい う危機感がつね にあるから、食 べ物に恵まれた とき、目一杯た べちゃうからだ。 そのかわり2、 3日食べ物にま るでありつかな してもオドロか ないのだ。 与えられすぎている飼いネコは 甘やかされすぎてぜいたくになっ たのか、このごろネズミをとろう ともしなくなったそうだ。 オレ、貧乏は大嫌いだし、あし たべる米の心配していて、いい芝 居できるとは思えないが、人間や っぱりどこかでハングリーである べきなんだろう。 ものを創る人間の場合は、特に。 (つづく)
April
ある時、大役に興奮
昭和32~33年、アテレコのごく初期のころ、NTVに「ヒッチコック劇場』という人気シリーズがあった。あるとき、オレは大抜擢。ウダツのあがらない老刑事に、オレゴン刑務所まで列車で護送される犯人の役だ。あの手この手で老刑事を抱きこみ、なんとか逃れようとする。全編通してほとんど二人だけの会話というよりは、この知能犯のひとり芝居といってもよい。そして、ついにピストルを奪っ刑事を射殺してしまうのだが、その弾丸が刑事がもっていた手錠のカギをも撃ちぬいて、こわしてしまっていた、という30分。前日のリハーサルから興奮した。いまだってそうだが、新劇の役者に給料はない。いかに舞台での貢献度が高くても”芝居なんかやってるやつは食えない〟のが基本的人権。江川なんぞとは大ちがいだ。とはいえ、人間食わなきゃ生きていけない。芝居もできない。0テレビで外人の口に合わせて本語しゃべれば出演料くれるってんで、とびついた。最初はいまでいう同時通訳ぐらいに思っていたが、やってみるとこれが、けっこううまくいく。よし、それなら外人にキッチリ日本語しゃべらせてみようぜという時代だ。一夜あければ、はれて本番。朝10時、いまは跡形もない番町スタジオで一回目のテスト開始。軽く流して千五百・・・・・・ナンテ気楽なもんじゃない。前夜、ロクに寝ないで工夫したその成果を問うべく全力投球だ。口を合わせるのが至難のワザだった当時だが、それ以上にビッチリ芝居を要求された。イマ以上だ。パッション優先の時代
新しいモノを創るときってなんでもそうだが、熱っぽいものだ。外人に日本語しゃべらせようとゼニカネ忘れた。もっとも、忘れやすかった。そのころのオレのギャラ、たしか一本1200円だった。税金、マネージ料、劇団維持費ひけば手元に残るのは、100円玉6個プラ10円玉ちょこっと。ラーメンが50円の時代だった。ゼニカネよりパッション(情熱)が先行しなくちゃできないよ。当時はみな、大なり小なりそうだった。そのパッションにささえられて、アテレコの技術は進歩していったのだ。いまアニメブームなんて騒がれているが、ルーツはアテレコ。そのアテレコ黄金時代を築いた役者はいまやすべて中年のまっさかりオレなんざ日本盛。いまだにサカリのついた不良中年。2回目のテスト。口の合わなかったところをアジャストする。芝居も密度がこくな30分の緊張から解放されるともうクタクタ。本番を終えたみたいに快よい疲労感にひたる。そしてふたたびダメ出し。この役をうまく演ればオレは認められるだろう。劇団ではまだ新人だったが「どん底」のペーペルをはじめ主役クラスの役をすでに演じていた。この役で出色の演技をすれば、マスコミでもオレの前途洋々とひらけるにちがいない。もちろん、失敗は絶対に許されない。役者なんて毎日がシケンだ。ひと言しかセリフのない役でも、失敗すれば、明日からは「その他大勢」になってしまう。年に数回しかないシケンを、まるで地獄の責苦のようにうらんだ甘ったれ学生時代が妙になつかしい。
ついに役をおろされる!!
ラステス(つまりラストテスト)。栄光の瞬間にむかって、芝居のボルテージはますますあがる。最後のダメ出しがあって本番に突入のはずが突入しない。オレの芝居がディレクターの気に入らないのだ。どこがどうというより、ひと味ちがうらしい。ふつうのチンピラになってしまうのが残念だという。時間をかけてのディスカッションの後、またまたラステス。最終テストを意味するラステスがいつ果てるともなくくり返される。つき合わされた仲間はたまったものじゃなかったろうな。ゴメン。結局オレの芝居にOKは出ず、本番を目前にして録音は中止。オレはその役をオロされた。くやしかった。仲間がなぐさめてくれてるあいだはヤセガマンしたけど、ひとりになってからボロボロ泣いた。最後までそばにいてくれた女優さんとどうなったかは聞くだけヤボといやそんなことはどうでもいい。役者になって20年余、涙流したなんて、アトにもサキにもこのときだけだ。いまでもその台本大切にもっている。表紙にはくっきりと、『オレゴンの靴』私はこの怖ろしい話だけは、記事にしたくなかった。
セーレキのヘキレキ!!!
その後しばらくして「ローハイド』でデビューのクリント・イーストウッドに出あった。ツイテいた。さいわい番組は大ヒット。オレとクリントもうけて、今日の声優としてのオレがスタートした。もうひとつツ当時はいまとちがって声優ブームではなかったからだ。親衛隊まがいの若い女の子に囲まれてYOUARETHETOPと騒がれたら、生来のりやすいオレのことだ、舞いあがってダメになっていたにちがいないもの。まったくツイテいた。まてよ、当時は声優なんて呼び方したっけかな?このごろよく“セイユーの山田さんです。なんて紹介されるけどイテオレ、いつスーパーの店員になったか?それにしてもこのあいだは驚いた。〝声歴は?"と聞かれちゃった。学歴や芸歴なら知っていたが、声歴とは初耳。まさにセーレキのヘキレキ!!:オレ即座に答えた。セーレキは1979年にきまってるじゃないの"そのうちに声の演技を「声技」とでもいうようになるのかナ?そうなったらオレは、日本全国に20人の愛人をもち、そのそれぞれにちがった顔を見せる、声技の味方「愛人二十面相」だ。とにかく、若いうちは全力投球すべきだ。人生について、どう生きるかについて考え出す年ごろになったら少なくとも10年は全力投球の生き方をすべきだろう。その間に、その後の自分に適した生き方がおのずと決まってくるのだ。直球にスピードがなければ、どんなすばらしい変化球も生きてこないのは野球では常識だ。ところで、オレいつごろから全力投球をきらうタイプの役者になったのだろうか......。(つづく)
May
信じられないだろうが、オレは新劇の役者だ。日本新劇俳優協会会員番号776という会員証をなぜかもっている。だからといって、べつにエライわけではまるでナイ。それどころか、やっていることはご存じのとおり、バカバカしいというかホントくだらないことばっかり。テレビでバカやってるのは世をしのぶ仮の姿、本当は新劇俳優よと、気取るつもりはない。だいたいオレのいるテアトル・エコーは喜劇しかやらないヘンテコリンな劇団だし、その中でもオレはクダラナイことやドタバタが大好きなことではヒケをとらない。加えて、何の足しにもならないバカバカしいことを一生懸命やるってのがたまらなく好きなんだナ。ついたアダ名がサボリーマン
あれは3年前、どころか20数年前、母親のとめるのも聞かず、オレは役者のタマゴになった・・・・・・。かつさい喝采はまったく聞こえず、世間から認められることもなく収入は限りなくゼロにちかいブルーだった。せっかく受かった劇団『民藝』も、レッスンは限りなくサボリッぱなしで、ついたアダ名がサボリーマン!!!野球の試合だけはかかさず出ていたので、オマエ野球部研究生かといわれる始末。一年後に追い出されたのは、当然すぎるほど当然だった。古いハナシだ。といっても、男がピカピカのキザでいられるほど古くはないが......。小さなグループに入ってテレビラジオにチョロチョロ出はじめた。ここで、現在エコーでのドタバタ・コンビ二見忠男に出っくわした。ギョロメダマでハンダースのアゴの親父みたいな顔をした。テレビではおなじみの男・・・・・・そうか、あいつとはそろそろ銀婚式だ780民間放送がはじまったばかりでテレビもラジオも、いまみたいに一日中、放送なんかしていなかった。当然、番組は少ない。おまけに、テレビ局は東京に3局しかなかった。だからといって、役者の数がいまより少ないワケじゃない。それどころか、まわりはすべてキャリア、実力ともにすぐれた先輩ばかりなのだから、役にめぐりあう確率は現在とはくらべものにならないくらい低かった。それでも週に2本や3本仕事してたんだから、オレは運がよかったんだろう。ラジオは録音だったけど、VTRはまだなかった。TVドラマはすべてナマ放送、失敗してもやりなおしはきかない。いってみれば舞台と同じだ。本番でピストルの引き金をひいたが音が出ない――トッサに口でバン!!!といった大先輩もいたっけ。コントじゃない、シリアス・ドラマでだ。その緊張感たるや、胃が痛くなるほどだったが、それだけに、終わったときの解放感、充実感もトシオ。みなで一緒に番組を作ったという連帯感が強かったせいだろうか本番が終わるとワッと飲みにいくことが多かった。人さらいクマタンとの出会いそんななかにクマタンがいた。熊倉一雄先輩だ。すでにスターだったクマタンが親しくしてくれ、よく飲みにもつれてってくれた。オデン屋、ヤキトリ屋、大衆酒場、そしてときには赤坂のバーやクラブだ。安ウイスキーなら10杯以上も飲めるようなブランデーがへいきな顔してでてきたりして......。「オレもいつかはこんな役者になれるかなあ」とひとりつぶやいたりして・・・・・・。ある日の夕方、TBSで本番が終わった。クマタン、フッと寄ってきて、「今夜あいてるかい?」あいてないワケないじゃないか。「チョットつき合う?」もちろん喜んで。局の前からタクシーに乗る。オきょうは銀座か新宿か?!?!?!ついたところがナント千駄谷公会堂。初日を明日にひかえたエコーの舞台ゲイコの真っ最中か本中華。知らなかった、クマタンは人さらいだったのだ。その公演終了後、オレと二見はエコーにひきずりこまれた。数ヶ月おくれてゴローさんが入ってきた。銭形のとっつあん、納谷悟朗先輩だ。ゴローさんはすでに現代劇場を主宰して、松木ひろし作『娑婆に脱帽』という舞台でとてもカナワねえな〟と思う芝居を見せてくれた人だ。先輩だけどすてきな仲間だ。呼びすてにしよう。クマやゴローたちとの酒と芝居の日々がつづく。よく舞台をやったし、それ以上によく飲んだ。芝居のケイコを終えて、夜のチマタへくり出す。帰るのは朝方の3時、4時がふつう。それで朝10時からアテレコの本番を、毎日のようにへいきでやっていた。それも男A、警官Bじゃない。主役をやっていた。早朝ロケに飲み屋から直行したこともある。いい先輩、いい仲間からずいぶん盗ませてもらった。運がいいんだ、やっぱり。
呼び方はなんでもいい!!
クマは3年がかりで井上ひさしさんを口説き『日本人のへそ』という芝居で、ひさしさんを芝居の世界へひきずりこんだ。そして、ひさ台本しさんとの出いでオレは役者としてスッゴク得をした。クマって天才的人さらいかもね。オレはそれ以前からNTVでショー番組をやっていた。ディレクター・白井荘也氏、作家・伊藤裕弘氏、売り出し中だっドリフターズと組んでの一連のショー番組づくりで、オレの笑いに対する感覚は大いに開発されていった。こういうすてきな仲間、すばらしい才能との出あいが、いまのオレを作ってくれたのだ。ホント運がいいんだオレって。まだ信じられないだろうが、税金の申告のとき、職業欄にオレは新劇俳優と書く。テレビタレントというにはテレビに出なさすぎるし、声優というにはテレビに出すぎるし、舞台俳優というには舞台で食えないし・・・。しょせん、呼び名なんてどうでもいい。役者であればいいんだ。とはいっても、新劇俳優といわれるより、コメディアンといわれるほうがうれしいけど。とにかくオレはこれからも、バカバカしいことを一生懸命やっていくだろう。ウソダイ!!!!って芝居をやっていくだろう。でも客におもねた"悪ふざけ”だけはしたくないな。(つづく)●お手紙ありがとう(敬称略)北海道・麻生美幸宮城・杉沢レネ子茨城山崎珠江東京・岡田由美神奈川・清水あずさ新潟・長岡の住人より富山・稲浪政子岐阜・吉岡泉愛知・貝谷満子京都・コーヒー専科「狩人」京都・武山恵美大阪・篠置麻理・鳥井正子・清水雅子山口・中島三枝熊本村上博子北海道・菅原由里子(近いうちに、読者の手紙をもとにした一文を山田康雄さんに書いてもらうつもりです。乞うご期待!!!)
June
オレはハプニングがすき!!舞台のたのしさの一つにハプニ ングがある。 もちろん舞台のすばらしさは、 客席と舞台が一体となって一つの 世界を創りあげていくことだが、 オレ、やっぱりふまじめな役者な んだろうか、ハプニングやアクシ デントがたまらなくたのしい。 録音にもハプニングはあるし、 録画にもアクシデントは起こる。 でも、これはとりなおしができる。 生放送のショー番組でのハプニ ングは自分のキャラクターで処理 すればいいのだが、舞台のそれは 役のキャラクターで解決しなくち ゃならない。このギリギリの極限 状態でのツナ渡り、なんとも快感。 オレ、マゾかしら? よせ集めのメンバーでチョコチ ョコっと稽古したいんちきステー ジじゃない。オレのいう舞台とは 2ヶ月3ヵ月、稽古をつんだ『芝 居』の話だ。 でも、そこはそれ生身の人間の やること、大小さまざまなハプニ ングやアクシデントはつきものだ。 - 数えあげたらキリがない。
わずか10数秒の早変わり
7年前 『道元の冒険』という芝 居で関西公演をした。井上ひさし 作品によく見られる手法だが、小 人数の役者がやたらたくさんの役 をうけもつ。 つまりは早変わりということに なる。 この舞台での早変わり当番は二 見忠男、沖恂一郎、山田康雄。 井 上作品での常連だ。 それぞれ7、8役をうけもった。 これがトッカエヒッカエ出て来る のだから、各人20回ちかい早変わ りをやった。とにかく、いそがし かった。もっとも、いそがしいか ら早変わりというんだけど――。 永平寺の禅僧と鎌倉武士との早 変わりが何度もあり、これは沖チ ャンとオレの二人が一緒だった。 沖恂一郎。 マスコミの仕事はあまり やっていないけど、エコー生えぬき の二枚目で、すごくうまい役者。一 生一緒に芝居をやりたい遊び友だち 飲み仲間。 舞台のソデにとびこむと衣裳、 小道具が待ちかまえている。 そういうときの舞台のソデは照 明の関係で、右を見ても左を見て も、マックラヤミじゃござんせん か。 だがオレは何もすることがない。 というより、何もしちゃいけない のだ。少しでも時間を、いや秒を かせごうと手伝うとかえってスタ ッフの手順が狂うのだ。だから、 定められた場所でエラそうにつっ 立っている。 懐中電灯のボンヤリした光の輪 をたよりに衣裳係がカミシモを着 せる、ハカマをはかせる......。 このときはもちろん足を動かす が、大きな動作は許されない。 ナ ぜなら、まったく時を同じくして、 小道具係が坊主カツラの上に武家 カツラをのせているからだ。 着つけのジャマにならないよう にさりげなく頭をかたむけて協力 する。 太刀をつけてハイ出来あがり。 この間、わずか十数秒。 信じられないはやさだが、そう でなくちゃ客のドギモは抜けない。 この神ワザとも思える仕事をやっ てのけるスタッフは専門の裏方サ ンじゃない。本来役者なのに、こ の公演では小道具を担当している 人、役者として舞台に出ながら衣 裳も兼任している人たちなのだ。
ハカマの片方に両足つっこむ
関西のバカデカイ劇場での早変 わりにも多少なれてきたある日。 神戸ー。 最後の早変わりを終え、いざ出 番というとき、思うように足が動 かない。 「シマッタ。腰でも痛めたか?」 だがどこも痛くない。原因はカ ンタン。ハカマの片方に両足つっ こんでいたのだ。 「沖チャン、ハカマ片っぽに両足 つっこんじゃった」 「はきかえなよ。ヤスベェ」 「そんな時間、ないよ」 「そりゃそうだ、どうする?」 「チョコチョコついていくから、 なるべくゆっくり歩いて・・・・・・」 そんなやりとりがあって、とい うか半分ぐらいは舞台に出ながら の会話だ。 権力をカサにきた武士がアワレ 小走り。 コマタの切れあがったい い女はイキなものだが......。 コマ タでしか歩けない武士なんてコマ ッタもんだ。 でも、オレにはハカマというツ ヨ~い味方がある。 足もとはそれほどよく見えない だろう。上体だけはソックリカエ って、さも偉そうにふるまった。 16ビートのリズムの上に荘重な メロディがのってるようなものだ。 失笑は聞こえない。 「ザマーミロ!」 得意げに前を見てオドロイた。 ビックリギョーテン。 真赤なハー トの形が口からとび出した。 私のハートはストップモーショ ン。 ヨチヨチ歩きのオレをかばって いつもよりスローテンポで、しか もいつもよりすこしよけいに威風 堂々とオレの前を行く沖チャンザ ムライが、ナント坊主アタマなの だ。 今度はオレ、目が悪くなったの かと思った。さいわい、今度もオ レは健康体だった。 ハカマ事件にあわてたスタッフ が沖チャンの頭 にカツラをのせ 忘れたのだ。オ レは自分の不運 をすっかり忘れ た。無性にオカ シイ。 何匹苦虫をか みつぶしても、 口もとほころび、 目尻ダラリ、セ リフはバイブレ ーション。 ついに沖チャンも自分の頭部の 異変に気づいた。 ごく短いそのシ ーンが終わるや、いつものように 素早くソデに引っこむのだが、そ の早いこと早いこと。 出るときのオレへの心くばりな んかもうカケラもない。そりゃそ うだ。一秒の十分の一でもはやく 姿を消したかったのだろう。 あとにしたがうオレは足とハカ そに マがこんがらがって、文字どおり ころがりこんだ。 さいわい、この芝居はメタメタ にうけていて、ささいなことに目 くじら立てるようなふんい気じゃ なかった。 ひっこむやいなや、二人して声 を殺して爆笑した。 客席以上に抱腹絶倒した。 またシワがふえてしまった・・・・・・。 ところでオレ、4/5、6、 7の日劇に出なかった。 出ると 思って来てくれちゃった人に心 からおわびします。と同時に、 出るともいってないのに、あた かも出るような出演予告を各誌 に流した責任者に断固抗議する。 オレも怒ってるのだ。 出なかった理由はあえていわ ない。
July
●M1時~12時 テレパッチCM
(サウンドシティ)
3~4 TVジョッキー(N
TV)●4~1/4・30 講談社取材
●M4・30~M7 ルパンにまかせ (ラジオ関東、 2本録音)
●7~ 1 千夜一夜(10本) きのうは東京ムービー主催のル )
パン三世コンペで、神奈川はレイ クウッド・ゴルフコースへ。 ルパン音頭の三波春夫サン、ル パン三世の吉川斌プロデューサー、 東宝宣伝部長の林醇一サンと一緒 のパーティ。 38人中1位という成 績はともかく、とてもたのしい一 日をすごした。 そのかわり、そのアオリで、き のうやるはずだった仕事が2本ず れこんできた。 いつデートすりゃいいんだ。 「ルパンにまかせろ」にVIPが あそびに来てくれた。解散するん だって。オドロイタ。でも、みん それぞれに音楽の仕事をするそ うだし、発展的解散か。それもい いだろう。 若いうちは、やりたいこと、何 でもやってみるのさ。ガンバレヨ、 すばらしいYMCA! 千夜一夜のスタッフ(なぜか全 員女性。いい番組だ)と文化放送前 の寿司屋で飲み、2時帰宅。 14日ぶりの休み。 とりあえず二日酔い。汗でも流 そうかとゴルフの練習に行ったら、 ボールが2つに見えやがんの。 結局、一日中グータラ。 寝るまぎわに突然思い立って、 ザ・テレビジョン、ジェリー・ル イスショーのヴィデオを見る。 とっくに引退してるのに、やっ 大した芸だ。コーフンした。 このごろ少し消極的になってい た舞台への欲がチョッピリ目をさ ました。考えてみりゃ、もう一年 も舞台をふんでいないものナ。役 者になって20数年、こんなに長く 舞台を休んだことはじめてだ。
M/11~ 1 音楽って何だ (FM 東京)
●M1・30~ M2 「週刊就職情報」 取材
2~6 ルパン三世
7~10 三波春夫LP、セリ フ吹き込み(テイチク)
11~1/2 少女探偵スーパーW リハーサル (TBS)
どこを探しても、シャリタイム がない。オレ、どこを探してもや セる余裕はなさそうなのに、アー ラ不思議、ズボンがゆるくなった。 「魅せられて」にひどく魅せられ ている今日このごろ。 富士小山ゴルフクラブでNHK 月 火 のコンペ。肝付兼太サンの車で御 殿場へ。大強風! 2時間しか寝 てないヤセッポチのオレ、ボール 飛ばすより本人が飛んじゃいそう。 お世辞にもいい天気とはいえな いけど、いい空気、いい景色、い い仲間、いいジョーク。ストレス は解消。 7時いったん帰宅して、番組の パーティへ。 明日からの交通ゼネストにそな えて都心のホテルへ。
●MH~130少女探偵スーパー W録画
道路の渋滞を予測して早く来た 迎えの車でTBSへ。道、意外と すいていてスイスイ。 こんなこと ならもう少し眠れたのに―― いい日、腹立ち。 一日中Gスタジオでビデオ撮り。 榊原郁恵、大場久美子のヤングと たあいのないおしゃべりをし、伊 東四朗、荒井注、桑山正一といっ た芸達者な人たちとの顔合わせで スタジオでアハハ、楽屋でもアハ ハ。 疲れはてた最後に、階段の追い かけ。えらいシーンが残っていた。 転んでケガするのはイヤだし、 スピードに欠けるのもイヤだし、 足はガクガク。 水 でも、役者ってやっぱり身体を 動かさなきゃダメよ。声の仕事だ ってそれなりにおもしろいけど、 役者の武器の半分は奪われている んだ。 ストは解決していたけど、また ホテル泊まり。
●1/1~1/2 ルパン三世 木
2~3 スタジオからこんに ちは録画(NHK)
● 4~5 俺たちは天使だ 予 2本(東宝)
連日の寝不足もさることながら ハンで押したような朝メシ、これ ダレるよ。 グレープフルーツジュース、ス クランブルエッグ、ベーコン、ト ースト、コーヒー。外人ってガマ 強いのかね。 きょうのルパン 「おれの大西部 「劇」 ドタバタで飛躍たっぷり、お まけにパロディック (変なコトバ) で、のりまくった。 毎週このくらいバカバカしくオ カシイってわけには••••••いかない んだろうな。
●M3・30~M7 レーカンやまか 金 第六感 録画 (ABC)
ストの影響で 早い飛行機しか とれず、1時前 にはボンヤリ大 阪空港におりた った。時間をも てあまし、雨の ふっていない御 堂筋、ブラブラ と見物のつもり が逆に見物され、早目にABCホ ール入り。 いきなり、ぶっつけ本番。1本 目も2本目も例によって快調に、 あたらず。 でも、この番組はホンとたのし い。ゆかいにあそんでるうちに仕 事は終り、大阪空港へ。 松岡きっこサンとメシを食う。 きっこは8時の日航機、オレ8時 半の全日空最終便。 「日航はジャンボだし時間通りに は飛ばないから、羽田でまた逢っ ちゃうかもね」 あや と妖しくほほえむきっこを見送 って、オレ、全日空の搭乗ロビーへ。 「ヤマダサーン」 ユッコが無邪気 に笑っている。清水由貴子だ。 オレの道づれは年長組から年少 組に変った。 トライスターにのりこむ。入り 口を閉めたのになぜかとばない。 やがてエンジンがとまる。 「オイよせよ、きっこのジャンボ に追いつかなくなるぜ」 そのとき、アナウンス。 「こちら機長です。 この機はエン ジントラブルのため、本日のフラ イトをキャンセルします。明朝7 時20分の臨時便におのりください」 ざわつくトライスターの窓の外 を日航の最終便が東京へと飛び立 っていった。 大阪市内に引きかえし、またま たホテル泊まり。これじゃ宿なし だよ。 ひどい過密スケジュールだけど、 マ、長いこと役者やってりゃ、こ んな時期もあるんだろう。 それにしてもオレ、テメエの葬 式代稼いでるような気がしないで
August
●前略ルパン殿
あなたさまのこのコーナー、毎月楽しく
よませていただいております。 あのユーモ
アあふれるおことばには、私のハラの皮が
ねじれてよじれてイタイ、イタイ! 涙が
チョチョぎれて、笑いころげることもしば
しばでございます。オレは役者だ。作家じゃない。 もちろん、役者にだって文才豊 かな人は多いけど、あいにくオレ には持ち合わせがない。 なのにナゼか毎月つぶやく、幸 せのどん底に立たされた。 それが目にとまって喜んでもら えるなら、これなうれしいことは ない。ホント、すごくうれしい。 嬉しいという字は、女が喜ぶと書 く。男にとってこれほど ステキなことはない。ス バラシイ。 オレ最初、いいたい放 題書くつもりだった。 現在のTVアニメって あんまり好きじゃないし、 アニメ専門誌でアニメをプチャン クチャンに叩き斬るのはさぞ痛快 だろうと思ったからだ。 でも、やめた。自分に似合わな いと思ったからだ。 「また、つまらぬものを斬ってし まった」と気取るのは五右エ門だ けでたくさん。 オレは自由をこよなく愛するル パン――いや、ヤマダヤスオだ。 テーマをきめて書きだすとつぎ からつぎへと話はふくらみ、あら ぬところにまで飛躍し、それでい てまだいいたりない感じなのだ。 しゃべっていると、いいまわし とか間で正確に伝わるものが、活 字になるとまるで逆の意味になっ たりしちゃう。 文章力の欠如! 役者であるこ との証明。 そのときそのとき思いついたこ とをとりとめもなく書き散らす。 これが、オレっぽくていいやと気 がついたのネ。 ま、ヒマツブシに読んでよ。
●私思うのですが、あなたさまにはなやみ や苦しみなんぞヘソのゴマほどもないんじ ゃないかと......。
ほんとにそう感じてくれたなら、 オレ大成功。 オレだって大人よ、人並みに、 なやみや苦しみはあるさ。あるか to. あるよ、チョコットは! ヘソのゴマほどもなかったら正 真正銘、頭だけハッキリしている バカだよ。 ところで明美のおヘソはどんな カッコウ? この夏、ぜひデート しようぜ。超ビキニでな、ヌフフ フフフ….....。 世界の悲劇を一人で背負ったみ たいな顔してるヤツ、オレにいわ せりゃミットモナイッタッテアリ シナイ。 人生でも仕事でも、恋でも遊び でも苦しむのってイヤだな。 どうせこの世はそんなにうまく はいかないものさ。 だったらいっそ、笑いとばして ハッピーに生きよう。 シャレのめして生きる人生、オ レにとっては最高。
つい最近、熱中時代であなたさまを発見。 「あーツ、ルパンがドラマに出てるウ」 これはピンクレディーがレコード大賞を とったときと同じくらいびっくりして目ン 玉が5、6センチほどとび出たネェ。
明美はめずらしい目ン玉をもっ ているんだねえ。こんど貸してお くれ、コントで使うから。 オレ役者だから、出演依頼があ っておもしろい役なら出るよ。 声一筋と固く決めた信念の人な らいざしらず、役者ならドラマに 出たってふしぎでもなんでもあり ゃしない。むしろ自然な姿だ。 とはいうもののオドロイた。 今年上半期にTVに姿をさらけ 出すこと。 そのうちドラマは わずかに5本、CM2本。 ほとんどがショー番組。 一口にショー番組といっても千 差万別、種々雑多、 神社仏閣、 水 道完備だが、いつかは日本でも出 ウエル ショウ 来るだろうWELL MADE SHOW に、オレはかぎりなくあこがれて いる。声だけでならもっと多くの ショーに参加してるし、月に1本 くらいはアテレコもやらせてもら ってるし、遊ぶヒマを見つけるの に苦労することをのぞけば、いま のオレはとてもめぐまれているな。 ただし、このクソいそがしいな かで舞台をふむことは、オレの肉 体というよりもオシャレ心がゆる さないから、たぶん今年は役者に なってはじめての舞台に立たない 年になるだろう。 舞台やドラマに出るときは、オ レ、役者山田康雄として出てるつ もりなんだけど、このごろは「ル パンが出てる」になっちゃうんだ だけ。 イメージの固定化! 役者としては迷惑50%、ありが たさ80% この計算の合わないところが、 まさにマスコミで生きるための必 要悪。
●わりかし長いセリフでヨカッタヨカッタ! 天下のルパンがひとことでおわりだなんて あまりにつらいもんナァ。
ありがとう。明美のやさしい心 に心からありがとうをいう。 でも、セリフがひとつしかない 役が、出ずっぱりの役よりおとっ ているという理由はどこにもない のだよ。 一シーンしか出ず、セリフがひ とつしかなく、それでいてその役 の人間像を的確に表現できたら、 役者としては最高だ。 研究生時代におぼえたコトバ。 「芝居に大きい役、小さい役とい うものはない。大きな役者と小さ な役者がいるだけだ」 ●BUT、なぜ刑事とか二枚目の役がまわ ってこないんでしょう。 水谷豊さんと大 してお顔のつくりはちがわないはずなのに ナア... はやい話が、オレは二枚目にも 刑事にも向いていないからだヨ。 芝居というものが人間の生活を 描くものである以上、いろんなタ イプの役者が必要さ。 役者である以上どんな役でもこ なさなきゃ、というのはシロート 考え。どんな器用な人でもおのず から守備範囲というものがある。 だいたい、役者というものは特 定の個人を演じるのであって、刑 事とか先生とかいう職業を演じる ものではないのであって......でも そういわれてみりゃ刑事って演っ たことないな、コント以外では。 しかし山田さん! あな たさまってアニメの主役と いえば、ルパンぐらいしか ございませんじゃないんじ ゃないですかァ?これ、 ひじょーにめずらしいこと と思いますが・ ひとつの声がいくつ ものアニメの主人公を 演じることのほうがひ じょ~~~にめずらしい。 ことと思いますが。 ハバ広い演技力をも つ役者ならともかく、かなり貧弱 表現力しか持ち合わせていない おかた(アテレコにくらべ、感情の 起伏が単純で、ニュアンスに富む表 現をあまり要求されない、というか、 できなくても通用しちゃう変な世界 なのです、マンガの吹き替えって) が一週間に3つも4つもの役の声 で出てくるとしたら......。 本人は演じ分けてるつもりだろ うが、聞いてるぶんにゃまったく ...... 同じやらせるほうも能がないし、 やるほうも芸がない。あ、それで 芸能界というのか......。 「ああ、また○○サマのお声が聞 ける」とファンにとってはうれし いことなのだろうけど、アニメの 世界ってじつにせまく、その中で ヌクヌクと生きているものはつい 見逃しがちだが、じつに小規模だ。
●私、あなたさまのしゃべり方、そして気 どらない性格、楽しんで人生を歩いている 生き方が好きなんですよ。このままかんお けの中におはいりになるまで、変らずにい て下さることを心から願うのでありマス!
ありがとう。 たぶん、このままの生きざまで、 無事、カンオケ入りするでしょう。 明美のいうことにいちいち反発 したように思うかもしれないが、 そうじゃないんだ。 明美のレターへの返事という形 をかりて、ちょっといいたい放題 いっただけなんだ。 明美のファンレター、字もきれ いだし、誤字脱字もないし、若い 女性特有の残酷さもないし、クダ ラナイ質問もないから、あえて使 わしてもらっただけなんだ。 きっとすてきな女の子だろう。 超ビキニのデートが実現するとい いね。 ヌホホホホホ ..。 オレ、やっぱり不良中年・・・。 (つづく)
September
ギラギラの太陽の下で······梅雨の合間にポカッと晴れあ がる日がある。 待ってましたと練習開始、 グラ ウンドにとび出す。 といっても、わが日比谷高校に 野球のグラウンドはない。 電車を ゴトゴト乗りついで、あちこちの グラウンドを借り歩いた。 ジトジト降り続いた雨をしっか り吸いこんでる大地は、久しぶり に顔を見せた太陽に照りかえされ て、上からはギラギラ、下からは ムンムン。 いまでは考えられないきれいな 青空に入道雲が湧き出し、周囲の うっそうとした木立ちではやかま しいばかりのセミの合唱。 ただでさえ夢みがちな年頃だ。 ついボーッと夢想の世界にさそわ れる。 先輩の叱咤、チームメートのか け声がスーッと遠のいていく。 と突然、キーンと金属音!し まったとスタートをきる。 当然の結果として足首を痛める、 つき指をする。 この大事な時期にとよく怒られ た。 当時から手抜き症のシタジはあ ったのか? いまとはちがって、雨天練習場 なんてあるわけがない。いくら若 いとはいえ、運動不足で身体はな まっている。ケガしやすい。 いまとはちがって物資のない時 代だ。アンダーシャツの替えなん てあるわけがない。 ユニフォームもアンダーシャツ も何日か前からの汗とホコリで、 着替えたときからぬれっぽい。カ ぜひきやすい。 いまとはちがって、ヘルメット なんてあるわけがない。頭に死球 をうけて昏倒、頭蓋骨にヒビが入 ったのに、翌日、まっ白なホータ イをグルグル巻いて練習に出て来 おそろしい先輩がいた。 いまとはちがって、真白いボー ルなんて公式戦以外に使えるわけ がない。六大学野球の使い古した ボールを東京都高校野球連盟がも らいうけて各校に分配したものだ。
授業中に球の"整形手術"
白球とはいえない「茶球」だ。 皮はささくれだっている。縫い目 は毎日のように切れる。 したがって毎日のように縫い合 わせる。 授業時間を利用して、夕 コ糸とタタミ針で整形手術にはげ む。これはいまでもやってるらし い。 学生野球の精神からすれば許さ れざる行為だ。 でも、練習を終えて帰宅すると、 日はとっぷりと暮れていて、夕食 をたべればバタンキュー。 宿題をやる余裕すらない。 休み時間は遊びたいとなると、 残るは授業中しかないのだ。 アマチュア野球の精神を守り通 すには、物理的に時間が足りなか ったのだ..... グラウンド横の小川に落ちたボ ールはしっかりと水を吸って、乾 くと皮がちぢむ。 うす暗くなってボールが見にく くなると、石灰をまぶして練習す るのだから皮は荒れ放題。 これを縫い合わせるのは大変な 技術だ。サイン・コサイン・タン ジェント、ピタゴラスの定理など 応用してもどうなるものでもない。 つい、うっかり手を突っつく。 「イテ!」 当然、怒られる。 なぜかといえば授業中だからだ。 ボールの縫い目は百八つある。 アメリカで始まったスポーツなの に、なぜ煩悩を拭い去る除夜の鐘 と同じ数の縫い目があるのか? ホラミロ。 また考えなくちゃならない問題 がふえてしまった。 ホント、授業中って忙しいんだ。 "コリ東大はムリだワ"
自分の自由を守る条件
「アニメをくだらないといわない で下さい。 山田サンが高校時代野 球が好きだったように、私たちに とってアニメはかけがえのないも のなのですから」 こういうレターをよくいただく。 あれは一年ぐらい前だろうか、 ある雑誌のアンケートに、オレ、 こう答えた。
Q. アニメブームについて。
A. くだらないといってしまえば ミもフタもないが、とにかく 異常だ。 とてもスナオに答えたのだが、 反響は大きかった。 いまだにその件でお叱りをうけ たりしている。だからといって、 エクスキューズやいいわけをする 気はまったくない。 たしかにオレは役者だ。 でも、芸能人にだって本音をい う自由ぐらいはあるだろう。 オレだってガキじゃないんだ。 ファンの人に喜ばれるような優等 生的発言ぐらいできるさ。 でもそればかりしていたら、息 苦しくなって、結局はオレ自身が つぶれちゃうんだ。 世の中って、いろんな考え方の 人が集って成り立ってるんだ。 そ れでいいんだよナ。 全員が同じ考え方になったら危 険だ。 ファッショへの行進がはじまる。 オレはヒトサマがどんな考え方 をしようが干渉はしな い。 それが自分の自由を 守るための絶対必要条 だからだ。
生身の役者にできないもの
ただ、これだけはい っておく。 オレ、アニメーショ ン自体をくだらないなんて、これ っぽっちも思ってないし、いって もいない。 それどころか、アニメとか人形 劇の世界ってたまらなく魅力的で すらある。 なぜって、オレたち生身の役者 には絶対にできないギャグや飛躍 の可能なすばらしい世界だもの。 たとえばオレたちが、舞台でヒ ョイと飛びあがって数秒間空中に とどまっていられるだろうか? 首を横にふっているうちに加速 度がついてしまって、首だけがグ ルグル廻り出すなんて芸当ができ るだろうか? どんな名優だって不可能だ。ど んな名コメディアンだってゴメン ナサイするだろう。 それをいとも簡単にやってのけ るアニメや人形劇。 バカなことを考えるなよ。絶対 不可能なことにあこがれたってし かたないじゃないか。 役者なら人体の可能な範囲で芸 をみがけ! 内容を充実させろ! といわれちゃえば、それでオシ マイだけどね。 好きなんだよオレ、ウソだい! とか、マサカ!というのが。論 理がビックリして裸足で逃げ出す ようなのが。 ところで...... オレが学生時代野球に狂ったの といまヤングがアニメに狂うのと、 本当に同じなのかなあ 大ざっぱに分けて、運動部と文 化部のちがいだけのことで、本当 に同じなのかなあ
October
なんとレコードにまで進出!!それは冗談っぽくはじまった。 レコードを出さないかという話 は去年の暮れに舞いこんだ。当然、 オレはしぶった。 ブームにのって悪ふざけするほ どガキでもないし。 笑ってごまかすほど、大人にも なりきれないし。 だいいち、詩の朗読をレコーデ ィングするほどきれいな日本語は しゃべれないし、人さまに聞かせ るほど歌はうまくない。 ・・・とすれば残された道は、 アイドル歌手か!? まあ考えてみると、長いこと役 者やってりゃいろんなことがある もんだけど、こんなチャンスはそ うあるもんじゃないよな。 テメエの好き勝手なLP創りな んて、マイナー・レーベルや自費 出版ならともかく、メジャー・レ ーベルで自分のアルバム作れるな んて。 やっちゃおうか? でも、何 をやるんだ? 勝田久先輩に「老骨にムチうっ て」といわれるまでもなく、オレ はもう若くはない。若ぶったって はじまらない。 愛・夢・ロマン どう い考えたって、オレはまぎれもない 中年だ。 そうだ、J・P・ベルモンドの 世界だ。それにディーン・マーチ リンのスパイスをきかせて·····よし、 やっちゃえ! 春まだ浅いころ、それは冗談っ ぼくはじまった。 精神はあくまでもシャレだ。 大上段にふりかぶって、これが 私のすべてでございます。役者と しての集大成でございますナンテ 大それたことは死んでもイヤだ。 でもどうせ創るのなら、オレっ ぽいものにはしたい。 あてがいぶちの台本で、おしき せの曲で、スケジュールのあいた ときにチョコチョコっと録音する。 それなら、やらないほうがましだ。 「LPつくるよ」 ただそれだけで、内容も条件も 聞かずに、大野雄二が仲間に加わ ってくれた。 ヒマでヒマで自分の才能をもて あまして、なんでもいいから仕事 がしたいという作曲家じゃあない、 雄チャンは 才能はありあまってるけど、過 密スケジュールで時間はまったく あまってない売れっ子だ。 冗談っぽさは、いよいよその冗 談っぽさをました。 岡本一郎サン(童話作家であり 放送作家でもある)にホンをたの んだ。というより、どんなハナシ にしようか話しあった。 できあがった脚本を3回、キャ ンセルした。 決定稿をかかえてオカモッチャ ンが劇団に現われたとき、彼はも う白い麻の背広を着ていた。
ハャメチャな打合わせ
雄チャン、キングの高塚ディレ クター、相手役をやってくれた市 毛良枝サン、演出の海老原保明サ ンとの顔合わせをかねての打合わ せは六本木の夜。 明日の昼までにCMソングを書 くのでと、こぶ茶のんでた雄チャ ンも、いつしか水割りのグラスを 傾けて、オレのデタラメな唄に合 わせてピアノを弾き、たのしくお しゃべりしてフト気がつくと、窓 の外にはもう星たちが消えていた。 その間、レコードについての具 体的な話はいっさいなし。 それでいて別れぎわには、 「できた。これで90%できた」 市毛チーコクンなどはあきれか えって、 「これが打合わせ? こんなたの しい打合わせなら、毎日やりたい」 また一人、すてきな仲間がふえ た。 しゃべりの録音は快調に終わり、 音楽創りに入ったある日、雄チャ ンから便り。 「メインテーマ作曲できた。詩の 雰囲気も出てるし気に入ってる。 ただし、メロディにうまくコトバ があてはまらない。書き直し、た のむ」 オイ冗談じゃないぜ、そんなデ ンポーみたいなので無理難題ふっ かけて オレはなかにし礼でも阿久悠で もないんだ。 例えばこんなのと書いたら「使 えるよ、それでいこう」とみんな でよってたかってデッチあげた。 急造インチキ作詩家なんだオレ。 で、何とかしなきゃ。 ピアノデ ッサンのテープと、一枚の楽譜を たよりに指折り数えて。 ほんとに苦しい何日かだった。 夢の中までコトバの洪水。 そのわりには同じようなコトバ ばっかり浮かんできて。 われながらボキャブラリーの貧 困さにオドロイた。
最高のサウンドと最低の・・・・・
本当にオドロイたのはそれから だ。 しょせん、オレなんざシロウト。 ミュージシャンじゃないんだ。 半日か、せいぜい一日で録音す るんだと思っていたのにー リズムセクションの録音に メロディ楽器のかぶせに2日。 どりに1日。仕上げにいくつかの 楽器をのせるのに1日。トラック ダウンにまる2日。 これじゃ大野雄二アルバムを創 るのと全く変わらないテマヒマの かけ方だ。 オレ、だんだん心配になる。 「雄チャン、そんなに コルなよ。これ、オレ のしゃべりのバックだ ろう?」 「そうだよ。だからイ キなんじゃない」 この一言でオレすっ かりダメになった。 誤解を招かないため にいえば、うれしくっ てズタボロなのだ。 ホ ントにこの仕事やってよかったと 思う。 あいにく、雄チャンは男だから ぐっとこらえたが、女ならとびつ いて抱きしめたところだ。 最高のサウンドと最低の歌唱力 という異色のとり合わせでレコー ドは二か月も予定をオーバーして 出来上がった。
「大野雄二の世界・朗読 山田康雄」
とタイトルを変更したいくらいだ。 オヒョイ(藤村俊二)が親戚で もないのに水洗の便いやいや 推せんの弁を書いてくれた。 (前略)このレコードのなかに は、山田康雄がひらべったくなっ て、全身で寝そべっていそォです。 (中略)まん中の小さな穴は、恥 ずかしくってかくれる穴か、チョ ットのぞいて売れ行き見る穴・・・・・ (後略) こうして冗談そのままというか、 洒落っぽくレコードは出来上がっ た。 ヒマツブシに聞いてちょうだい。 山田康雄近況レポート このレコードの話、冗談ではなく、本 当なのだ。話だけでは冗談っぽいから、 編集部ではちゃんと左の証拠写真左は 大野雄二氏)を撮ってきた。もっとも、 レコードの打合わせなのか、喜劇の打ち 合わせなのかよくわからなかったけどね。 このLP、題して『せしゃれまん/ 山田康雄&YOU』。モンキーパンチさん のポスターもつくそうだ。 歌は4曲。もちろん吹き変えなし。 ブ ルースあり、ボサ ノバあり、はては クロスオーバー風 ありと、どうなる ことか!!! 発売日がこれほ どまち遠しいレコ ードもめずらしい。 (10月21日発売)
November
もの想う秋・きみは何を想った? 枯葉やきイモ? ちょつとイメージが現実的すぎるな。山田ルパンの想いは空翔け、宇宙のハテまでとんでゆく!!WHEN?
もの想う季節。ジグザグ気取った都会の街並みにも、日が暮れるとすだく虫の音が豊か。昼間の残暑がウソのようだ。台風がつぎつぎに発生して日本列島をねらう。アスファルトのジャングルでは忘れかけていたすすきの穂に出あってホッとするのはゴルフへの行き帰り。無理矢理休みを作って遊びに行くからこそ、こうした四季の移り変わりにめぐりあえるのだ。この文章が活字になるころはチョット季節はずれだが・・・・・・
初秋お見舞い申しあげます。
ナゼか毎年そのころなのだが、オレは突然誕生日に出っくわして、アゼン、ガクゼン、ただボウゼン。今年はたまたま月曜日。ルパン放映の日と重なった。しかもナント100回記念。単なる偶然だけどうれしかった。週1回放送の番組で1000回というのはわずか2年だけど、オレ100回を超える番組に何本レギュラー出演しうかテレビ朝日『ローハイド』TBS『コンバット』NTN『あなた出番です』NTV『ルパン三世』たぶんこれだけしかないと思う。このごろ忘れっぽくなっているから、記憶もれもあるかもしれないけどま、いずれにしろ一つの番組が1000回をこえるということは、よろこんで見てくれるファンの応援と、おもしろいものを創ろうとするスタッフの努力があればこそ。本当にありがとう。
WHERE?
このいまわしくもチョッピリ楽しい誕生日の数日前、土星の話題がとびこんで来た。パイオニア11号だ。電波がとどくのに36分、もし新幹線で行くとすれば100年。気の遠くなるような彼方から写真を送ってきた。6年半の旅のあげく、この宇宙探索機は、オレの子どものころから本などでおなじみの、あの神秘的な土星の環のそばを通り抜けた。ワ!!!ワ、ワ、ワ、ワが3つ、じゃワは6つなんだってよ。一口に6年半というけど、きみたちは6年半前いくつだった?何をしていた?しかもこの、宇宙の秘密を少しずつ解明していく現代科学のスイ・パイオニア1号は、今後もとびつづけるそうだ。天王星、海王星、さらに冥王星の軌道をとおり抜け、1993年ごろには太陽系の彼方にとび出してしまい、こと座を目指して永遠にとびつづけるのだと宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999になれしたしんでいるアニメ・ファンには笑われるかもしれない。.........信じられるか、この空間が?分るか、この機械の孤独が?SFの世界から、Fがどんどん脱落していく。それはもちろん必要なことだ。人類の平和のために必要なことだただし、文明の発達、科学の進歩というものは、人類の平和に直結しないかぎり意味はないのだ。人間の英知は無限に拡がり、科学は果てしなく進歩しているのに、ガンはおろか風邪すら本質的には治せない現代。ボクらは本当に豊かなのかな。月に生き物のいないことは、もう何年も前に実証された。でも、やっぱり月にはウサギがいて、十五夜の晩にはハッピにハチマキ姿で、おもちをついてほしい。火星に生き物が存在しないこともすでにあたりまえの事実になってしまった。
WHAT?
オレが子どものころ、宇宙人といえば即火星人だった。アタマがデッカクて、タコみたいな姿に描かれた火星人、それでいてわれわれ地球人よりはるかにすぐれた文明をもつ火星人に、興味とおそれと親しみを抱いたものだいてほしかったけど、やっぱりいないんだって。アンドロメダすら身近にあるアニメ・ファンには軽べつされるかも知れない。「いまどき何いってんの。年よりのノスタルジックなセンチメンタリズム」でも宇宙人は、どこかに必ずいオレたちよりはるかにすぐれた文明をもち、オレたちのように文明の進歩をとげすぎたあげく、絶滅してしまった人類の悲劇をよく知っている、あるいは経験した宇宙人が必ずいるはずだ。いや絶対にいる。UFOがあるもの。オレ見たんだ。去年の暮れ、ゴルフの帰りに。群馬県の太田から熊谷をへて関越自動車道にむかう途中で。同乗者は作家の伊藤裕弘サンと、演出家の江里口喬サン。裕弘(ユーフォーサンが一緒だったんだもの、本当だよ。オレのハナシって、どこかでウソッポクなっちゃうのよね。
WHY?
何で土星にはあんなワがあるんだろう。何で木星にはあんなシマがあるんだろう。何で46億年も前に太陽系が出来たんだろう。何でこの気の遠くなるような宇宙空間のホンのすみっこで、人間憎しみあったり争ったりするのだろう。わずか70年ぽっちをそうだ、やっぱりテメエの好き勝手な生き方をしょう。ただし一生懸命。もちろん他人に迷惑をかけずに。
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