Saturday, November 12, 2022

Emiko Okda/Shinichi Suzuki's "Anime College" 1979 Column (Animage)

January

「もう一度「歩き」の話

「歩く動き」のことを、もうすこしくわしくやろうよ、という提案が、イラストの鈴木さんから出てきました。「どうしてかというとね、あるく動きなんて基礎の基礎みたいなもので、ちょっと考えるとだれでもすぐ描けそうだ。この『アニメ塾』でも第二回でやったし、あれであある程度わかってもらえたとは思うよ。ところがね、若い人の作品を見せてもらうと、いささか気にな『歩き』がよく出てくるんだなあ。それで、もういっぺんくわしくやろうと思うんだ」とね。まず、足の方はたしかに一歩また一歩を踏み出しているのだが、腰から上がまるで棒を飲んだようで、ただイチニ、イチニと手を振っているだけ、というような動きがよくあると鈴木さんはいう。「そういう動きを見せられても、リアリティがないんだよね。キャラクターがそれ自身の体重をしかに持って、一歩一歩あるいて行存在感、たしかにそこにいる、という実感。それを描き出すのがアニメートのしどころ、見せどころなわけ。たがいちがいに足さえ出せば『歩く動き』になるわけではないんだよ」「それでは、どういう点に注意すればいいのかしら?」「そうだね。まず生きた人間の関節は、歩くとき、どことどこが動いてどうまがるか、これを知っておいてほしい。省略したり誇張したりするにせよ、基本として知ってほしい。そうすると、地面についた足先や、足のつけねがどうなるか、わかってくる。それから重心だね。一歩踏み出せば、胴体がそれについて行く。重心は前に移動して、踏み出した足が体重をささえる。続いて別の足が前に踏み出し、ふたたび重心はそちらへ移る。このくり返しでキャラクターは前進するわけだけど、重心の移動を正しくつかんでいないと、ギクシャクする。そして体重。キャラクターの大きさや性格におうじて「このくら「いの体重」というのが考えられるだろう?その体重が、踏み出す足にかかれば地面を踏んだ足にもそれなりの変型や誇張があっていい。お相撲さんが歩くのと、五歳の坊やが歩くのとでは、動きがちがうのも当然だ。これが描きわけられれば、キャラクターの存在感大きく増してくるはずだ。ぼくは、歩きや走りを描くとき、まず踏み出す先をキチッとわり出して、その足から形をつけて行くね。そうしないと、的確な動きが描きづらい。顔なんか、むしろあとからゆっくり描くね」

正面を向いて歩こう

さて、つぎにはもう少し手のこんだ、アニメートに挑戦しましょう。いままでは歩くにせよ、走るにせよ、ぜんぶキャラクターは横向きでしたね。このキャラクターに正面を向かせてみましょう。そして、歩かせてみます。さあ、こんどはいささかむずかしいよ。横向きの動きとちがってちょっと見たところ、キャラクタのかたちには大きな変化があらわれません。また、誰かに歩いてもらって、前から観察しましょう。この「歩き役」のひとは、なるべカチカチにならぬよう、いつものとおりノンビリと、ゆっくり歩いてもらいます。運動会の入場行進みたいに緊張しないで・・・・・・どんなことがわかった?•「ほんの少しだけど、踏み出した足に体重がかかって前へ出るとき、上体もそっちの足の側にちょっと傾くね」「手を振って歩くとき、決してその手は振り子みたいに規則的に振れてるわけじゃない。前方に振ってきたときは、すこし内側へ、つまり、おなかの方まで来るよ」「足を前に踏み出して、つまり真横から見て足と足の間がいちばんひろがったときは、そのぶんだけ全身がすこし低くなる」「逆にいちばん高くなるのは、片足に重心がかかりきって、別の足が地面をはなれて途中まで来たときだな」というように、いろんなことがわかって来ます。もうすでに8ミリのカメラがある人は、誰かが歩くところを撮影して、動きの参考にするのもいいでしょう。ただし、この前の号でも書いたように「実物の動き」はあくまで参考知識として、基本として頭に入れておきたい、ということであって「実物の動きそのまま」を描こうというのではありませんから、あんまり「実写」にとらわれすぎないようにね。「実写」か学びとったことをもとにして、動かすキャラクターによく合った動きを考えましょう。誇張するとして、どのくらい、どんなふうに誇張したらいいか工夫しましょう。「すぐに上手に描けない、うまく動かない、としてもガッカリすることはないんだよ」と鈴木さん。「正面向きのキャラクターを歩かせる、というのはプロでもなかなかむずかしいんだ。アニメーターになったばかりの人が、最初に苦労する関門のひとつといってもいいね。でも、これができれば、劇的な演出をしたいときずいぶん役に立つんだから、練習しておいてムダはない。挑戦してみてごらん」さて「正面向きの歩き」ができたら「うしろ向きの歩き」もやってみましょう。さっきのいろいろな観察は、そのままこちらでも役に立つはず。「口笛吹き吹き意気ようようと去ってゆく少年」とか「風と夕日の中をとめるのもきかずに消えてゆく木枯し紋次郎」なんて、いちどは動かしてみたいでしょう?ひとつ、これも練習してマスターしましょう。

地の果てから何かがやって来る
ところでみなさん「遠近法」って言葉を知ってる?「あんまりバカにしないでよ。遠いものは小さく、近いものは大く描くことでしょう?」そう、そのとおり。それと、さつきの「正面向きの歩き」を組み合わせてみようというのです。これができると、かなりおもしろい「演出がいろいろと楽しめますよ。キャラクターをひとつ決めましょう。ま正面より、すこしななめ向きの方がいい。つぎに、紙のまん中よりちょっと下に、一本線をひきます。これ地平線キャラクターの足と頭のてっぺんから地平線に向かって線をひきます。頭からの線と足からの線が地平線でぶつかるように。どのくらいの角度でひくか?いま、キャラクターはちょっとそっちへおいといて、立方体をひとつ描いてみましょう。そして、いちばん上の辺といちばん底の辺との線を延長して、地平線で交わらせてみよう(どうせアニメを作りたい人は数学なんかきらいでしょうけどそんなイヤな顔しないで)できた?この立方体が地平線に向かってどんどん遠ざかって行くとすればいま引いた2本の線の中を遠ざからせると、ギクシャクしないのです。地平線にポツンとあらわれた点が、箱になり、みるみるうちに近づいてくる、というのも、この2本の線の中で描くわけ。キャラクターの場合も、頭と足の先から引いた2本の線の中を歩かせるんだけれど、これをいいかげんに引いちゃうと、アニメートしにくいうえに、絵も空間もゆがんだような、なんともうまくない結果になるからご用心。鈴木さんの絵をよく見てほしいのだけれど、ここでは、「キャラクターの足の位置と、その角度」「顔の向き」などから「立方体の上の辺と下の辺」にあたるのはどこか、わり出してください。これは、どんな単純なキャラクターであってもま箱や自動車やSLでも、共通することなのです。2本の線が引けたら、その中を使って「地平線から登場してぐんぐん接近してくるキャラクター」を描いてみましょう。このとき注意するのは、「遠いところにいて小さく描かれているキャラクターの足はこびはやっぱり小さくなっている」ということ。だから、地平線までの線単純に何等分かして一歩ずつ歩かせたりしたらヘンなことになりますよ。この「一歩」の割り出し方にも、法則があるのです。さて、何を地平線から登場させてみましょうか。いろいろなものがつぎからつぎへと、生物・無生物を問わず、地平線からあらわれはぐんぐん大きくなって視野の外へ消えてゆく、なんて作品もおもしろいし、やり方によってはSF的な実験作品ができそうよ。やってみませんか?

タテからヨコからナナメから

こういう練習をやっているうちに、みなさんきっと、「横から、前から、うしろから、ななめ前から、なんて、見る角度を変えてキャラクターを描くとなると、そのキャラクターはどっちの方から見ても描けるかたちをしてなくちゃいけないな」ということがわかってきたと思います。自分の好みのキャラクターを作るときは、「そのキャラクターがどういう物語、どういう展開の中で活躍するのか(作品の内容ですね)」ということをよく考えてデザイするのが大切。横、前、うしろ、ななめ前どころか、あるときは真上から見おろす、またあるときは足もとから見あげるような構図をとって、ダイナミックな演出をしたいというようなとき、キャラクターは「あらゆる角度から描けること」が条件になります。ほら、よくアニメのプロダクションの紹介記事なんかに、おもなキャラクターをいくつかお人形に作って飾ってある写真を見たことがあるでしょう?あのお人形はイミなくつくってあるんじゃなく、キャラクターを「いろいろな角度から描く場合」参考用にこしらえてあるのです。ベテランはもうそんなの必要でないけど、新人アニメーターは、お人形をいろんな角度から見てスケッチしながら、キャラクターの全体をからだでおぼえていくわけ。だから、あなたの作るキャラクターも、タテからヨコからナナメから描けるようにデザインしないと、思うような演出ができません。「ということは、つまりデッサンをしっかりやる、ということになるんだよ」と鈴木さん。「タテからヨコからナナメから、キャラクターを描くってことは、そのキャラクターのまわりの建造物や家具や品物なんかも、タテかヨコからナナメから見て描かなくちゃならない、ということになるだろう?デッサンができてなくてはね。デッサンというと、すぐ石膏の彫刻がなくちゃできないのでは、なんて思いがちだけど、そんなことはない。自分の家にあるものを片っぱしから描いてみるんだよ。ひとつの物をそれこそタテからヨコから描いてごらん。外へ出たらポリバケツだろうがバスの停留所だろうが、やっぱりタテからヨコから写生する。何枚ぐらい描けば上手になるか、なんてことは断言できないけど、描けば描くほど良くなることは受けあうよ。絵がへただ、と思い込んでる人もひとつやってごらん」なお、壁に描いたラクガキみたいな(イラスト参照)キャラクターを使う場合は、あんまり劇的な演出はできません。こういうキャラクターでも、じゅうぶんおもしろい作品は作れますが、その場合ストーリーの作り方、演出法なども立体的なキャラクターが主役のときとは、意識して変えるわけですね。工夫してみてください。それではまた来月!

February

UFOを飛ばせてみよう

これまで「キャラクターの歩かせ方」「走らせ方」とそれに付属しておぼえておくべきいくつかの法則のお話などをしてきたわけですが、こういう質問をよくききます。「ある動きをアニメートする場合、最初の絵から動き終りの最後の絵までを、どんなふうにわけて、つまり、何枚ぐらいに割ったら、スムーズな動きになるの?」これはプロの言葉にすると、「アニメートの中割り”のコツを教えてほしい」ということになります。今回はこのお話をしましょうね。アニメートしようという絵にはいろんなものが考えられます。間、動物、鳥や虫。武器や機械の動き、なにかのはずみで動きだし家具、道具、石や木・・・それらが速く動いたり、ゆっくり動いたり。どんな動きのときは何枚にわける、といった方程式みたいなのがあれば便利だけど、そんなものはないのです。ひとつ、ここで練習問題をやってみましょう。UFOを飛ばせてみるアニメート。なるべく単純な型のUFOを、1秒間飛ばせるアニメートです。まず、紙のはじっこにUFOを描きます。これがスタート。つぎに紙の別のはじに、同じUFOを描く。これがゴール。スタートとゴールは、なるべく遠く。紙の対角線上がいいでしょう。二つのUFOの間に、これが飛んで行くコースをひきます。最初は直線。この直線を、9つに割りましょう。「等分に割っていいのかな?」そうね、まず等分に割りましょう。そのつぎには、両はじをすこしこまかくつめて、まん中は広く割ってみる。もうひとつは、逆に、両はじを広く、まん中をつめて割る。できた?そこでアニメートをはじめましょう。いつも分割点がUFOの中心(つまり重心)にくるように注意して。これができたら、8ミリに2コマずつ撮影して、映写してみます。(ひとつの動きを、3回ぐらいくりかえして撮影すると、動き方がよくわかる)どう?どれがいちばんおもしろい動き、スピード感のある動きになった?元気のいいUFOになったかしら?これは絵を描く人が「ふーん、こう割るとこう動くのか。なるほどな」ということからだでおぼえる手段として考案された方法のひとつです。割り方をもっと変えたり、ウネウネカーブのコースを引いたり、UFOを反転させたり、いろいろくふうして「割り方によって生まれる動き」を身につけていきましょう。

ブランコは振り子のように...

機械は機械的に動く

「そうすると、動きの間隔を均等に割る、なんていうケースはあんまりないわけ?」そうでもないのよ。ちゃんと使い方があります。たとえば、静かに走る船、エスカレーター、図表の上をのびて行くグラフの線、宇宙空間をとぶ人工衛星、なんていうのは均等割り”でアニメートされます。「いま例にあがったのは、みんな生きものじゃないね。機械とか、図型とか、無生物だね」機械は、ひとたび動き出せば、とちゅうで息が切れたりくたびれたりしない。一定のテンポで動きつづけます。意志や筋肉の力で動いてるわけではないから、動きはじめからずーっとおなじ動き方をする。さっき、ゆれるコースを均等にしてみたブランコが、なんとなく機械の動きみたいな感じがした、というのはそういうわけですね。「機械といっても、ロボットみたいなのはすこし違うね」そう、アニメのロボットは性格があたえられたりして、血がかよっているでしょう。均等割りのアニメートが生み出す動きは、文字通り〝機械的”な、つめたいメリハリのない動きといえますね。ということは、人間にせよ動物にせよ生きもの”の動きは、あある程度、不規則だということになります。ゆるやかに動き出し、スピードをあげ、超高速になったり、ブレーキをかけたり、ときにはギクシャク、ドタバタ、グイと止まったり、力を入れたり、ゆるめたり......まず〝機械的な"動き方はしません。したがって、「動作のはじめから、終りまでをキチンと等分に割って、一枚一枚ちがう絵を描いたんだから、これで動くにきまってる」と信じこんでいたりすると、描きあげた結果がどうもうまくないたしかに動かしたのにヘンだなあということになりやすい。ヘンだなあと気がつく人は、やがて割り方のおかしかった点に気づいて、生き生きした動きを作る方法を見つけ出せるけど、中にはちっともヘンだと思わない人もいて、いつまでも平気で均等割りをやったりする。たまーにプロになっても、これがなおらない人がいる。そういう場合、制作スタッフはとても迷惑します。こういうのは一種の音痴みたいなもので、なかなかなおらない。養成中の新人アニメーターは、汗を流して描いた絵を先輩にズバズバ修正され、線をなおされてときにはベソをかきます。しかし、テスト撮影してみて、動きが見ちがえるように生き生きとなったことに気がつき、驚いたりショックを受けたりしながら、成長していくのです。このとき、自分の描いたものと修正されたものの差、つまり、動きの違いがぜんぜんわからない人”がいたら、悲劇です。こういう人は、いくら絵が上手でも、アニメーターには向きません。さあ、あなたはどうかな?

デッサン力・観察力・演技力

「というところへ話がきたから、アニメーターの適性の話もちょっとしとこうか」と鈴木伸一さんが言いだしました。「この前、タテからヨコからナナメから、何でも描けなくちゃならない、といったね。それはなにも原画の人だけじゃないんだよ。いわゆる“中割り”のアニメーターだって、そうなんだ。たとえば、誰かに呼びかけられて、主人公がぐるりとカメラのほうを振り向くという動きを描くとする。原画のアニメーターは、背中向きと前向きと2枚だけ描いて、間の何枚かは“中割り”が描くわけだ。顔とからだが、すこしずつ正面向いてプロセスを作りだすのは"中割り”の人だよ。この人が、人体の動く速度や体のねじれ、傾き、あらゆる角度から見たキャラクターの顔などを描けないとしたら、このカットはまかせられないだろう?」「ジャンケンポン、とグーからパーになる手のアップを描くとする。原画にはグーとパーの二枚の絵がある。グーからパーへ、指がひろがるプロセスは、何枚ぐらいにわけて、どのくらいずつ指をのばしていけば、勢いよくパーになるか?これを描くのも”中割り”さんだ。やさしくはないよ」アニメーター全体についていうと、観察力と演技力が必要だ。そういうと俳優になるんじゃあるまいし、演技力なんているもんか"と思う人がいるかもしれないね。でも、本当なんだよ。たとえば、議論に夢中になってゲンコで机をドンとたたく、とい動きを描く。このとき、ゲンコのスタート位置から、机の表面までを何コマかに割るのは当然だが、それを忠実に描き上げるだけでは“いい動き"それらしい動き”には決してならない。(わかった。これも、はじめはゆっくり、だんだんスピードアップして......)と思った人もいるだろうけど、それより、まずゲンコがぐいと上に引かれる、というほうが大切だ。引いて力をこめ、ハズミをつけて”ドン!"机にぶつかれば、前に話した慣性〟でゲンコは一瞬、ペチャンコになる。これだけのことが、すぐ頭に浮かび、描けなくちゃならない。ぐい、と上にゲンコを引いたほうがいい、だれでも机を叩くときはそうすると気がつくのは、アニメーターの観察力だ。机とゲンコだけじゃなく、どんな動きであろうと、つねによく観察し、おぼえていれば、描くとき、その記憶を頭の引き出しから取り出して応用できる。人やものの動きをただ、ぼんやりと見ていてはダメですよ。机を叩くにしても、そのとき顔はどうなる。肩はどうなる。ひどく腹を立てているのか、相手の意見に引き込まれて“うん、そのとおりだ!"と叩くのか。ここを描きわけるには、演技というものへの理解、つまり演技力が必要なんだ。これは〝感情の表現法”というようなとこでまたくわしく話そうね。それでは、また!

March

"まわり込み"とは?

アニメをこころざす人は、どんなものでも、タテからヨコからナナメから描けなくちゃ……という話は、もうなん度もしましたね。そこでひとつ、タテからヨコからナナメからを実際に生かした実験作品の作り方をご紹介しましょう。ここにイスがひとつあります。このイスを、四方八方から写生してそれをつなげてみよう、というのです。まず、ま上に近いななめ上から見おろしたところ。そのつぎは、もうすこし目の位置をさげてもう一枚。目の位置をすこしずつ下げながら、イスを時計の針のようにまわして、その角度から見形を描いてゆきます。ついに最後は床スレスレからイスを見上げて、高層ビルでも見上げているように描く。これをならべて、一枚2コマづつ続けて撮影してでらんなさい。どんな画面になった?「うわー、まるで大きなイスの上空から地上ヘ、ヘリコプターで舞いおりて行くみたいだそのとおり、これはかなり魅力のある手法です。実写の映画で、写そうと思う目的のもののよ」側面へカメラのほうが移動して行撮り方を「まわり込み」といいますが、アニメではカメラでなく絵のほうがカメラにまわり込まれたように変化し、でき上った画面は実写の「まわり込み」と同様の、またはもっとするどい効果をあらわします。そして、この演出はやはり実写と同じように「まわり込み」と呼ばれています。角をまがったところに身をかくしている男のほうへぐーっとまわり込んだとか、テーブルの向こう側にすわった人物のほうへ、ウエィターが見た目のようにだんだん移動して行くとか、凝った演出ができます。水平にまわり込むだけでもなかなか迫力が出ますが、演出の内容しだいでさっきのイスのように、タテの動きが加わるといっそうダイナミック。高層ビルの上から舞いおりてゆく鳥をずーっと追っかけるというようなとき、この手法でビルを描けば大迫力まちがいなし。そして、これを可能にするのは一にも二にもデッサン力。イスでもビンでもヤカンでも自動車でもタテからヨコからナナメから描いてみることです。ま横からみたヤカンなんて誰でも想像がつくけど下から見上げたヤカンの形なんてあんまり思いうかばないでしょうせっせと写生を重ねれば、絵はどんどん上手になるはず。ゼッタイただにはならないわよ!

メタモルはいかが?

みなさん「メタモルフォーゼ」という言葉をきいたことある?はやく言えば変化、変型というようなことです。ヘーンシンとは違うのよ。たとえば、紙にマルをひとつ描きます。これをだんだん変化させて、正方形にする。正方形をまたすこしずつ変化させて三角形にする。こういうのを「メタモルフォーゼ」略して「メタモル」といいます。マルや四角じゃ変化してもあんまりおもしろくはないけれど、トンボがハトになり、飛行機になる、というような変化は意外でもあり、上手に描ければなかなか迫力も出せ、ちょっと神秘的でもあって、楽しいものです。創刊号のアニメージュを持っている人は、第1回のこのページを出してみて下さい。鈴木伸一さんが、タマゴがヒヨコからニワトリになってまたタマゴにもどる絵を描いているでしょ?これが、メタモルです。名古屋の竹間ゆかりさんという女性がセッセと作りつづけている作品「しんかろん」はこのメタモルだけでアニメートしたものです。アメーバがだんだん変型して三葉虫や魚類に変わり、両棲類から爬虫類へ・・・・・・というような進化論のプロセスを、一つ二つと描いています。メタモルの技法と内容が、よくマッチした作品といえますね。「メタモルの本当のおもしろみはね、むしろ、とんでもない物から物への変化をやるところにあるんだよ」と鈴木さんはいいます。たとえば進化論とか、乗りもの発達史とか、オタマジャクシがカエルになるまでとか、そういう変化のメタモルはわりに誰でも考えられるし、もちろんそれはそれでおもしろい作品ができる。だけどね、もっとおもしろいのは、意外や意外、あれよあれよとモノの形が変わっていくアニメーションだ。正直いって、ぼくがいまいちばん魅力を感じているアニメの型式はこれだね。そして描き進めていと、自分でも思いもかけない変化や変転が展開しはじめて、おもしろさには底がない。これといったストーリーがなくても、またどんなに飛躍してもいい。そしてこれこそ、アニメでなくっちゃ絶対にできない手法なんだよ。イメージのひろがりの限界に挑戦するたのしさ、とでもいうのかな。この前、ジャンケンするときの話をしたね。グーの手が、ジャンケンポンとパーになる手を描くとすると、最初の絵でにぎっていた五本の指が、最後の絵では全部ひらいているわけだ。これも一種のメタモルといっていいわけで、とちゅうの指がだんだんひろがっていくところなんかは、絵としてだけ見れば実に中途はんぱな気味のわるいヘンな絵であるかもしれない。でも、その絵は必要な絵だ。メタモル映画も、この途中の絵をどうさばくかで、作品のアクセントもタッチも変わってくる。絵に自信のある人はやってごらん、楽しいよ。

立体メタモル

さて、そのメタモルを、こん度は立体アニメでやってみましょう。材料は油ねんどがいいでしょう。台の上に油ねんどのかたまりを置きます。これを、たとえば雪だるまに作りあげるとして、ただのかたまりから少しずつ少しずつ形がつけられ、雪だるまになっていプロセスを、一コマ一コマ撮ってみましょう。できたフィルムは油ねんどのカタマリが、モコモコグニャグニャ運動して、ひとりでに雪だるまになる、そういう画面が撮れているわけこの雪だるまが、また少しずつ変化して、ポストになったり、ヅウになったり、ロケットになったクジラになったり、思いつくまいろんなものに変わる。これだけでもたのしいメタモルアニメが作れます。油ねんどだけじゃちょっとさびしいと思う人は、ゾウの鼻に小さ旗を持たせてみたり、クジラに切り紙で潮を吹きあげさせてみたり、いろいろアクセントがつけられるでしょう。つぎの形に移るとき、いちど必ず球型や立方体にして、それから変化していくなんてのもおもしろい。このゾウやクジラやポストなんかは、うんと単純な形にするのも思い切って手のこんだ複雑なデザインにするのもお好みしだい。もっとも、私個人の好みでいえば、あんまり複雑な形をつくると、油ねんどの質感と合わせて、かなり気持ちわるいものができちゃう可能性が強く、あまり感心しませんね(だいいち、ものすごく手間がかかって、途中でイヤになるおそれが多い)。事実、ウィル・ビントンという人の「月曜休館」という、お休みの美術館の中で、彫刻やオブジェがゴニョゴニョ変型する、という悪夢のような油ねんどアニメがありますが、デザインが複雑なのでかなり無気味でしたね。この反対に、単純なキャラクターを作って成功したのが「ヤクルトミルミル」のCM。「キミのおなかにビフィズス菌いる?」っていうあれ。ハニワみたいに目鼻だちのシンプルなキャラクターがとてもかわいらしく、油ねんどの質感のマイナス面が消えていたのには感心しました。油ねんどという素材はかんたんに手に入ってあつかいやすく、誰でもメタモルアニメの実験ができるけど、逆にそういうデザインの面で気を使う、手ごわい素材です。用心して挑戦してね。それから、注意するのはライティング。ちょっと平面アニメと勝手が違います。うっかりしてるとうす暗くなっちやって見づらい。かりに苦心して人形を作って撮るときでも、照明だいてずいぶん印象が違います。ちょっと光線を傾けて影を強調すると、劇的な印象になったり、さびしい美しさが表現できたりします。「そこが立体アニメの苦労のしどころでもあり、たのしいところでもある」と立体アニメのプロたちはいいます。かし、照明に失敗したら、撮影はまたイチからやり直し。ガッカリしてダウンしないよう、照明は計画をしっかりとね!

立体アニメの「ゴチューイ

ここで、また「ゴチューイ」を二つ三つお話しときましょうね。特に立体アニメの場合は、気をつけることや危険なおとし穴がいくつもあって、いちど失敗するとガックリくるものですから。前の章でも書いたように、照明チャンとしないと、うす暗くて鮮明な画面になりません。うす暗い中でなにやらモソモソ動いてるというフィルムは、見るのも疲れるし、まず、見てもらえないもの。それから、ものを速く動かしすぎないこと。たとえば、台の上にコケシを二つ登場させる。画面の両はじから出てきて、まん中で出会って、並んでなかよく別のほうへ消えて行く、なんて場面を撮るとしましょう。このときの、大切なことは、「どのくらいの秒数の画面にすれば、見る人に、やっている内容がよくわかるだろう?」ということを撮る前にキチンと検討して、各カットの秒数を割り出しておく、ということです。紙に描くアニメと違って、一コマ一コマ動かしては撮ってゆく立体アニメは、かならずしもキッチリ事前の計算どおりにははこばないかもしれないけれど、それはかまいませんよ。だいじなことは「コケシは何秒でまん中までくるか」「出会ったコケシが顔を見合わせて、すこし右に左に動いてあいさつするのは何秒」「つれだって退場するのに何秒」という、動きに必要な長ささきに考えておいて、だいたいそのように撮るということです。なにしろ、撮影していご本人はおんなじコケシをにらみつづけてにらんでいるので、だんだんイライラしてきます。「エーイ、めんどうだ。退場まで3秒と思ったけど、1秒でいいや…………見てるんだっててきとうに想像してくれるだろう」これが、立体アニメの「悪魔のささやき」なのね。こいつに負けるようでは、なにごとでも成功しません。アニメ以外のなにをやってもダメな人になっちゃうよ。ひどい場合は、コケシを手で持って動かしながら(つまり一コマ撮りをやめ、手は画面の外にかくれるようにして)撮るなんていうことになって、まあそれでも人形劇みたいなものは撮れるけど、これは立体アニメとはいえないのね。人形劇はそれ自身立派な芸術ですが、立体アニメの世界とはおのずと味わいもおもしろさも違うもの。立体アニメを撮りつづける根気がなくてズルズルと人形劇に・・・・・・なんてのは問題外。そこまでいかない人でも「えーい、このくらいでわかるだろう」と人形の移動間隔がどんどん広くなって、チャカチャカした画面が完成というのをよく見ます。負けないで!立体アニメにせよ、平面アニメにせよ「それくらいでわかってもらえるだろう。みんなアニメを見なれてるから」とお客さんの感覚に甘えるのは最大の危機。どんな人にでもすんなりのみこめる展開テンポを忘れずに!※来月号で、いよいよ初級編の終わりです。〝アニメ"に対する質問がありましたら、「アニメ塾』あてにはがきをおくってね。

April


音楽を大切に!

この連載も10回目。みなさんのなかには、もう自分のアニメ作品をスタートさせた方も、撮影中の人もいるでしょうね。きっとすっかり撮り終って、完成の喜びを味わっている人もいるんじゃないかな?ところで、その作品の「音」のことです。つまり、バックに流れる音楽、効果音、ナレーション、セリフなどの音は、ありますか?ナレーションやセリフは、なくても平気。いや、むしろなるべくなくすか、うんと少なくする努力をしたほうがいい。セリフで説明するより、見さえすればわかる。そういう演出が望ましいのですが、作品全体のうしろに、その作品内容によくマッチした音楽が、展開のテンポにあわせて使われていれば、これはもう作品の印象をぐっと強めることができるのね。効果音もそう。画面に、カーンカーンと鳴ってる鐘。大きな石がドボーンと水に落ちたしぶき、大爆発、なんていうのが描かれて動いているとすれば、そういった音があるにこしたことはありません。ただし気にしすぎて、走ってる場面で靴音や、お茶をのんでるカップの音、なんてこだわると、やたらにうるさい作品になりますから気をつけて。最近は、こうした効果音のテープやレコードが市販されていますから、利用して、ここ!というところに使ってみましょう。音楽も、「楽しい場面用」「アクション場面用」などといろんな伴奏テープが作られていますし、自分のすきなレコードを使うこともできます。ときには、だいすきある曲から、アニメの発想がわいてきて、一本の作品にまとまる場合もあることでしょう。この場合はもう文句なしに、その音楽に演出展開、カット割りをあわせてまとめていけばいい。ただし、注意するのは、えらん音楽があまりに強いと、絵のほうが押されて、見終わったとき、音楽の印象だけが大きく残ってしまう、というケースがちょいちょいある、ということです。たとえばビートルズを使う、というような場合、せっかく描いたアニメが逆に曲のおまけのような感じになったりします。いずれにしても、音楽は慎重にきめましょう。作品の効果を高めるか、ぶちこわすかの境い目!くれぐれも「音楽さえつけば、なんとかカッつくだろう」「いい音楽がつけば、話のおかしいのや絵のまずいのもゴマカせるんじゃないかな」などと考えないこと!これらは、プロでさえときどきはまりこむ「悪魔のささやき」なのです。

勇気ある編集を!

以前、ゴチューイのひとつとして、「NGのカットは使わないこと」と書きましたね。照明ミス、露出ミス、動きの計算ちがい、自分の手を撮っちゃった。こういうカットははずすのがあたりまえ、撮り直して当然。撮り直しがすくなくなればなるほど一人前。プロに近いということになりますが、同時に編集による作品の仕上がり効果のことも考えてみることにしましょう。「編集なんて、ストーリー順、カット順につないでしまえばそれでおしまい、と思ってる人がいるようだけど、ちがうんだよ」と鈴木さんは言います。「たしかにアニメの場合は、劇映画などと違って、おなじ演技をなん度もなん度も撮影して、いちばんいいのをとり出して使う、というようなことはない。ちゃんと動いていて、照明や露出などにミスなくきれいに撮影されていればそれていいんだけれど、さて、その『ちゃんと撮れたカット』を順番につなぎさえすれば一件落着か?というと、そうじゃないんだ。ひとカットづつよく調べてごらん。たとえば、キャラクターが登場してくる前に、なにもないカラッポの背景だけ、なんて部分があるだろう。この部分が、「シーンとした室内に、突然怪人が現われて」とか「神秘的宇宙空間に突然登場する発光物体」とか、つまり「動くモノ」の出てくる前の設定をキチンと説明するために見せている背景なら別だが、そうでないなら、カットのはじめからキャラクターが動いている方がいい。そして、このキャラクターが画面から退場―フレームアウトというが、してしまったら、カラッポの背景はやはり編集でカットしよう。これだけでも作品のテンポはよくなるんだよ。さらにくりかえして映写してみて、どうもこのカットはなくてもいい、という部分が出てきたら、それは覚悟をきめてはずすんだ。これ、ずいぶん勇気がいるよ。せかく苦労して描いたり動かしたりしたのに、すてるのはつらい。でも、そのすてる勇気と決断が、よりよい作品を生むんだね。(10月号の「声優入門」に勝田久さんが「泣いて馬謖を斬る」と書いておられた。その意味はつまりこういうことを言ってるんだよ)プロでも「捨てる決断」は苦しいんだ。それから、ひとりで作りあげた作品は、自ではストーがすっかりわかっているので、ついひとりよがりになってる場合があるね。どんどん他人に見てもらっておかしいところを直していこう。ときにはきね歯に衣きせない批評もあるかも知れないが、それをおそれてはいないよ。『明日の勝利のために、今日の屈辱に耐える』ってのはここを言うんだね」鈴木さんの言うとおりね。でも、おたがいに見せっこして批評しあう場合、やはり、あんまりボロクソな言いあいはやめましょう。「作りあげる苦しみ」を理解し合って、できればプロの人に公平に批評してもらうといいと思います。

共同製作のヒント

「ひとりで作っていてもあんまり大きな作品にならないから、お金や機材をもちよって何人かで協力して作るってのはどうだろう」と考える人たちがいます。いい考えで、このやり方でユニークな作品を生み出したグループもたくさんあります。でも、この場合、チームワークが悪いと必ずケンカになるか、しまりのない作品ができるか、します。リーダー役が「問答無用・オレについてこい」式の人では、協力する人が不満でしょう。といって、なんでもかんでも多数決できめようなんていう無責任なグループでは、いい作品はできません。やはり、演出の責任者をひとり決めて、この人が自分のイメージをスタッフに伝え、作品を組み上げていかないと、シンのとおった作品づくりはできないでしょう。この人がしっかりしていないと、仲間われのもとになりやすいからご注意。人望があるにこしたことはありません。そして「あいつ、本当にイヤな野郎だけど、いいカメラもってるから仲間に入れよう」なんてことをやると、とかくマサツがおこりがち。作品が空中分解する原因になりかねません。まおこづかいの多い友だちをアテにするとか、やたらに大勢からカンパをつのるとかいうのも、あとあと問題になりやすい。ご用心。とにかく、無理な計画はたてないこと。そして、出しあったお金の処理はキチンと表にまとめるぐらい常識ね。これをやるのがプロデューサー名古屋のアニメ研究会TACでは、かわいい怪盗のキャラクターをひとつ決めて、会員ひとりひとりが一分間ぐらいのお話を作り、めいめいで描き上げ、つないで、かなり長い作品を作りあげています。盗みに入っては失敗また失敗のドジ怪盗のお話がエンエンとつづく。そこは個人差で絵や動きに上手ヘタはあるものの、主人公が統一されているので一貫した印象になり、映写すると爆笑つづきの、ななかたのしい作品ができました。共同制作アニメを作る場合の、非常にうまくいった、かしこいケースと言えるでしょう。こういう型式を「オムニバス」と言います。ひとりで作る場合でも、たとえば一つテーマを決めてみじかい起承転結を考え、30秒か1分ぐらいの作品をいくつもいくつも作ってズラリと並べると、しゃれた短編集ができます。テーマは、ずっと前に書いた「チョウを追っかけていたら」「道にあい大穴」なんてのもいいし「たくさん並んだドアをひとつひとつ開けていくと、そのたびになにか「起こる話」なんていうのもいい。前にも書いた和田誠さんの傑作短編、『殺人(マーダー)」もこのスタイルです。要するに、あんまり大げさな大計画をたてすぎないこと。とちゅうでダウンの「幻の大作」はイミなし。小さくても一本、とにかく完成してこそ意義がある!

「観客」から「製作者」 へ

さて・・・・・・ご愛読いただいたこの「アニメ塾」の初級編は、今月でひとまず終わります。この10回ぶんをよく読んでいただければ、かんたんな作品なら必ず作れるはずです。そこで、まとめの意味で、「アマチュア・アニメはこうしよう」というポイントをいくつか並べてみました。○なるべくお金をかけないこと。○勝負は企画、よいアイデア。○シナリオ、コンテなど下準備の段階に充分時間をかけよう。○機材、照明などの点検、撮影時のデータをキチンと。○仕事はていねいに、シャープな仕上りを心がけよう。〇一本の作品を完成すること!「完成だって?あったりまえでしょう?」そう、あたりまえです。ところが、これがむずかしい。とちゅうでイヤになって、断片的なシーンがいくつかできてるだけ、なんていうのは、そのシーンがどんなに上手に描けたり動いたりしていても「作品」とは呼べません。たどたどしくても、一本を完成し、完結させてこそ、「アニメを作った」と言えるのです。だからまず、完成すること!そしてつけ加えれば○誰が見てもよくわかる作品を。(ひとりよがりはダメ)〇他人に見せてこそ完成。どんどん見てもらおう。(くさされるのがイヤで、作者ひとりでシコシコ見てるようでは問題外)○他人の批評をよくきこう。○プロとアマを問わず、他人の作品をたくさん、よく見よう。そう、一本の作品をつくりあげた瞬間、あなたは「観客」の席から「創り手」の席へ、一歩あるいてきたのです。この一歩は小さいようで、実はものすごく大きな意味をもっています。なぜなら、もうあなたは「ひとコマひとコマ、コツコツと作品をつくる苦労」を知ったのです。たかだか1・2分の作品に、何週間か、何か月かをついやして、さてあらためてプロの作品を見たとき、どうなるか?「あーあ、上手だなあ」「どうしたらあんなにきれいにできるんだろう」「あっ、こんなことやってる。これはとても大変な技術だぞ」「みじかいカットだけど、作者がいちばん苦労したのはここだ」などということが「観客」時代よりずっとよくわかり、アニメを見る目が深くなります。当然、きびしい批評眼もそなわってくるでしょう。けれど、そこには「創る」という体験をとおして得た、あたたかい理解がプラスされているはずです。そして、今後すぐれたアニメに接するとき、その作品は前より大きな感動と内容とを、あなたに伝えてくれるにちがいありません。アニメーションをより楽しく、深く味わうためにも、「観客」か「製作者」へ、さあ、前進。第2部の「中級編」で、またあたらしい一歩を進みましょうね!!!●次号では「中級編」とのつなぎとして、みなさんからの質問に答える「Q&A」特集です。

May

「アニメ塾 初級編」を終えたところで「疑問とお答え」の特集をしてみましょう。編集部によせられた読者のみなさんのご質問、ま私たちが日ごろよく耳にするおたずねなどをまとめたものです。連載中の説明がじゅうぶんでなかったかもしれない具体的な技術面のことをカバーできれば、と思います。

Q. 絵を描くにはどんな紙がよいのでしょうか? 画材屋さんにはプロ用のものを売っていますが、安い紙ではダメですか?紙の大きさも、もっと小さくてすめば・・・・・・と思うのですが。

A. アニメ用の紙は、前の絵がすけて見えること、着色してもにじまないことなどが条件です。もちろん、安い紙でいい。文房具屋さんや画材屋さんで「上質「紙」と指定してください。紙の大きさは、むしろ使用する8ミリカメラがどこまで絵を接写できるか、ということで決まります。かりに、ハガキ大までよれるなら、紙の大きさはハガキより一まわり大きいものですむわけ。無計画に描きはじめると、労力を損するかもしれない。まず、使うべきカメラの性能を調べましょう。クローズアップレンズが使用可能だとグッとよれるはず。

Q. プロ用の紙には上部にタップ穴があいていますね。あの穴あけの道具、ぼくらでも買えますか?無理なら、かわりの方法を......

A. 絵の位置をそろえるためのタップ穴は大切だけど、この穴あけ機はすごく高くて、買うのはねえ。代用できるのは書類の穴あけ機です(パンチャーという)。これなら、だいたい8センチ間隔で直径356ミリから6ミリぐらいの穴が、そろえてあけられます。これを受けるタップ定規のほうはいたんだ竹のものさし(チャンバラごっこしてギザギザにしたのがあるでしょ)に、穴の大きさに合う古い筆の軸を切って接着剤でくっつけて作る。または、穴あけ書類のとじこみ用バインダーを改造してもいいでしょう(イラストを見てね)。このほか、穴をあけないで、創刊号に書いた「アタリ」を使う方法もあるし、ノート売り場へ行くと売っている「計算用紙」「らくがき帖」なんていう無地の便せんみたいなものを利用すれば、はじがとじてあるから位置も合わせられる。いろいろくふうしてみてください。

Q. 描いた絵に色をつけたいと思います。学校で使う水彩えのぐだとにじむのですが?

A. 水彩は、あんまり感心しないですね。まず、水を使うということで、紙が水を吸ってシワになりやすい。それに、何十枚もつづけおなじ色調で塗るのもむずかしいしね。ムラにもなりやすい。水彩の淡いよさも、撮影して映写するとくすんだ感じになりがち。「ハッキリうつること、鮮明な印象をあたえること」を条件に画材をえらびましょう。マジックなど油性のフェルトペンの色はあざやかで、カメラうつりもいい。クレヨンや色エンピツもきれいだけど、どうしても一枚ごとにムラが出るので、むしろそれをおもしろく生かすようにしないとね。水性フェルトペンの「マービー」は最近、はば広く塗れる(つまり先が筆みたいな)「ブラッシュマーカI」を出しました。これなんかも使えそうだけど、大きな画材屋さんでないと、置いてないかもしれない。描いた絵に直接彩色する場合、むしろ白地をどう生かすか、これがキメ手になります。白と黒でシャープに描かれ、要所要所に強い色がピリッと、すくなく使われているほうが効果的。むしろ、広い部分に彩色せずに表現するよう心がけましょう。

Q. 第1回に「雑誌のグラビヤを切り抜くアニメ」っていうのがありましたね。絵が描けないから、あれをやってみようと思うんだけどグラビヤの紙がペラペラしてやりにくい。いい方法ないですか?

A. 裏打ちするほうがいいでしょうね。たとえば、カラーグラフの宇宙船を切り抜いて、べつの写真や絵の中をとばせよう、というようなとき、まず宇宙船のページを大きめに切りとって(ことわっておきますが、いらなくなった雑誌を使うんですぞ!)画用紙やうすめのケン紙などで全体に裏打ちしましょう。ノリは、ふつうのものだと乾燥するとデコボコになったり、そってくる。大きな画材屋さんでペーパーセメントというのを買って使うのがいい(これ、すごくシンナーくさいから、家の人に迷惑かけないように。外でやりなさい、といわれるかもしれないよ)。裏打ちができた段階で、よくきれるハサミでていねいに宇宙船を切り抜きましょう。さて、切り抜いた切り口(小口という)を黒く塗っておきます。こうすると撮影したとき、宇宙船のヘリがへんに光ったりしないで背景にしっくりとけこみます。ちょっとむずかしいわよ。しくじったら宇宙船もパーになる。イキをとめてーっ……そうっと......。

Q. 第3回のときの照明のことを、少しくわしく知りたいのですが、電球は1個じゃダメですか?

A. 撮影する絵の正面、つまり真上にカメラがありますね。したがって、照明はななめ位置からあてることになります。すると、肉眼では絵にたっぷり光があたっているように見えても、露出計できちっと計ってみれば、画面の両はじでかなり明るさの差が出てきて、カメラはそれを正直に感じとり、半分暗い画面ができちゃう。両方から当てれば、光がおぎない合って、絵のすみずみま平均して光があたるでしょ。使う電球は「アイランプ」という、写真用のもの。ものすごく熱くなるから、やけどに気をつけてね。また、光は絵にあてるだけでいいのだから、あんまり大型でなくても、15Wを2本でもじゅうぶんでしょう。アイランプ用のクリップ式のソケットを用意して、絵から等分の距離に2個の電球をセットしましよう。カメラに光が入らないくふうのほうが、むずかしいかも。黒のラシャ紙に穴をあけたりして、各自のカメラに合わせてやってみましょう。いうまでもないけど、自分のうちは電灯何アンペアか知ってるでしょうね。女性のみなさん、どうかな?アンペアなんてことばも知らない、なんて人いるんじゃないかな?ま、おたくの電気の使用量に見合った照明をする、ということです。冷蔵庫とかクーラーとか、絶えずスイッチが入っている器具の電力を考えに入れて。電球を買ってから、これではムリだと気がつく、なんてことしないようにね。

Q. それでは、太陽光線で撮影する場合はどうでしょう?

A. このほうがずっと手数がかかりませんね。絵の上になにかの影がおちないよう、絵が風でとばないよう、注意して。くもってきたら露出も変わりますが、朝と夕方はどんなにいいお天気でも、光線が黄色っぽいので撮影には不むき。それから、フィルムは太陽光用と電灯用がありますが、この使いわけはキチンと。半分電灯で撮影したところで、きょうはバカにお天気がいいから、フィルムの後半、太陽で撮りましょう、なんてかってにきめても、電灯用のフィルムは太陽向きにはならない。この逆、つまり、昼光用のフィルムで、屋外で半分撮ったけど、その後、雨ばかり降ってるからフフィルムの残りを電灯で······というのもダメ。とにかく、撮影条件はどっちかに決め、そちらのフィルムで一貫して撮ることです。

Q. 人形やねんど細工、つまり立体ものの照明の注意する点は?

A. ライトの高さ、角度を 人形が人間だとして「お日さまが当たっているような角度」にして光を当てると、自然です。なお、当然、絵の撮影よりは、広いスペースに光をあてることになりますから、強いライトが必要になるし、2灯以上必要な場合も出るでしょう。

Q. ストーリーの中に夜景があるのですが、夜らしくするには?

A. それで思い出しました。夜は暗いだろうというので、電球をひとつ消して撮った人がいたっけ。これは考えすぎで、なにがうつってるのかもよくわからず、なんにもならないのね。むしろ、絵の色や人形の背景を夜らしく描いて(青や黒を強調して) 立体の場合は光のさす方向を一方向にすると、お月さまの光みたいな感じになるてしよう。

Q. アマチュア・アニメのコンクールに出品するのを目標にプランをねっていますが、入賞の秘訣があったら、そっと教えてください。

A まず、仕上りがシャープだというのが第一でしょうね。画面が明るく、キリッと上がっていればもうそれだけて印象が違います。ピンボケ・照明不足などは、どんなに内容がよくても減点。NGカットが抜いてないのも困ります。音楽はあれば強い。しかし、セリフやナレーションは、ヘタならないほうがいい。絵がうまいのに雑音だらけの棒よみセリフで、ブチこわすというケースが少なくありませんからね。そもそも、セリフで説明しなければ意味がわからない作品、というのを、初歩の人は極力さけましよう。見ればわかるアニメというのは、見ればだれでもわかるはずのものなのだし。つぎに「だれでも考えそうなこと」は捨てる。「オリジナル企画「書」のコンクールのとき、飯島敬さんがいっておられたでしょう。「西暦二千××年、地球は」ってのがほとんどだって。この型の、つまり「009」や「ガッチャマン」の亜流は、いくら作者が夢中になってもまず入選しないし、大勢でお金をかけて作りあげても、テレビアニメのまがいもの、と評価されるのがせいぜい。アイデアが類型を抜け、アマチュアの素材と技術で、しかしていねいにシャープに、短くキリリと仕上げれば、拍手も栄冠も目の前。成功を祈ります。※今月は、みなさんの投書からおもなものをえらんで、答えてみました。いかがでしたか?!?!?!次号では、いよいよ「中級編」にはいります。セルアニメについてもふれますので、おたのしみにね。質問はいつでも受け付けていますので手紙を下さい。

June


短編アニメをつくろう

創刊号から二回にわたって連載した 「アニメ塾」のねらいは、 「なるべくお金をかけず、また誰でも 気らくにアニメ作りの第一歩をふみ出 せるための手引き」 ということでした。つまり、あの日 回ぶんをよく読んでいただければ、か んたんな作品なら必ず作れるはず。そ して、どんな小さなものでも、ひとつ の作品を仕上げてみれば、アニメ作り の魅力はいよいよ大きく、つぎの作品 への夢や情熱もひときわ大きくふくら むだろう。そういうつもりでした。 さて、今回からは、中級編となりま す。ちょっとむずかしくなりますよ。 でも、きっとお役に立つ内容になるは ずです。 以前「せめて30秒ぐらい内容がない と、見ていてもあんまりおもしろくな いから、最低30秒のストーリーを組み 立てよう」と書きましたね。30秒から 分ぐらいで、けっこう中味のあるお 話が作れます。海外には「60秒作品の コンクール」などというのもあって、 日本からも久里洋二さんや月岡貞夫さ んが参加、受賞しています。わずか! 分でも、じゅうぶん観る人を楽しませ る、しかも短いだけにピリッとワサビ のきいたショート・ショート・アニメ が作れるのです。 テレビアニメで育った読者のみなさ んは、ともすれば、 「30分ぐらいなければサマにならない んじゃなかろうか」 と考えがちなようだけど、それは心 配ご無用。テレビアニメは、番組の時 間から作品の長さが割り出されている ので、べつにあの長さは絶対的なもの でもなんでもありません。 その証拠に、ディズニーやフライシ ャーのアニメは、みな10分以内(短編 の場合)。なぜかというと、テレビがま だなく、劇場用に作られた作品、しか も短編となると、35ミリフィルムのひ と巻き 〈映画用〉が、長さもちょう ど手ごろというわけで、アニメのパイ オニアたちは、この「一巻の長さ」つ まり短いものは6分から長くて10分と いう時間を使いこなすくふうを重ねま した。 研究してみると、この長さは決して 短くなく、しゃれたストーリーがいろ いろ作れるし、ユニークな表現も可能 な長さでした。 ミッキーマウスやドナ ルド・ダック、ベティ・ブープやポパ イなどは、ほとんどこの長さの中で活 躍しています。 だから、まずあなたの作品は、8ミ リのフィルム一本ぶんあたり (約3分) を目安にして、ストーリーや構成を考 えてみましょう。 オリジナルでも、原 作のあるものでもいい。 大作を計画し てダウンするより、まず小さく確実に はじめましょう。 それでは「中級編」にはいるとしま しょう。

どんなストーリーを?

アニメ作品をつくるのに、自分で考 えだしたオリジナルストーリーがあ れば、それにこしたことはない。でも、 人によっては「どういうストーリーを つくればいいんだろう?」 「どんなお話がアニメにふさわしいの かしら?」 と迷う人があるでしょうね。それか ら、そのストーリーをどういう順序で アニメ化するか、というのも、考えな くちゃね。 それじゃ、ひとつ練習問題をやって みましょう。だれでもよー く知ってる、なるべく短い お話をひとつ、 えらんで下 さい。 「グリムやアンデルセンの お話はどう?」 「江戸小ばなしも短くてお 「もしろいよ」 「イソップ物語はどうかし ら?」 どれもいい考えね。それ では、イソップから、なに かえらんでみましょう。そ うね、ウサギとカメなんか いいでしょう。知ってるわ よね? 知らないようでは 奇跡の人だぞ。 まず、ウサギとカメのお 話を100字以内にまとめて みよう。できますか? 小 学生のノートなんかがある と、字数がかぞえやすいわ ね。100字もいらないかな? ちょっと私もやってみまし ょう。 「ウサギとカメが競走した。 ウサギは速足でカメを大き 引きはなし、ちょっとひ と休み、と昼寝をした。カ メはその間も休まず走りつ づけ、ねているウサギを追 いぬいて優勝した」 ほら、90字もいらなかっ た。どうしてこういうこと をするかというとね、分 から5~6分の作品のスト ーリーは、1000字以内にまと まるような単純なものでな いと、やりにくいのです。 やりにくいというより、 舌ったらずになりやすい。この1000字の 中に、主要な登場人物や、事件のなり ゆきが、ちゃんと入らないとダメよ。 たとえばあの「指輪物語」を100字にす るなんて、とても無理でしょ? 登場 人物も多すぎる、事件も山あり谷あり 波乱万丈。したがって、短編にはなら ない、というわけ。 それから、江戸小ばなしやフランス のコントなんかは、それじたいとても おもしろいけど、絵になりにくいとい う点がひっかかりますね。会話がトン トンとはこんで、思いがけないシャレ でオチがつく...というような内容は、 読めばわかるけど、映像におきかえる とあんまりおもしろくないのね。 とあんまりおもしろくな だから、まず、 「絵にして動かしたとき、絵のおもし ろさが生かせるか?」 「セリフやナレーションにたよらない と、内容がわからない、というような ことはないか?」 というあたりを、チェックしながら、 ストーリーをえらびましょう。オリジ ナルでも同じこと。 そして、いちばん大切なことは「ア ニメでなくてはできない話」 かどうか?ということ。つまり、 「どうやっても、なま身の人間では劇 にも映画にもなりにくい」ストーリー が、もっともアニメ向きだ、といえる でしょうね。

お話をふくらます

いま例にあげたウサギとカメの話は、 とても単純でわかりやすい上に、人間 が出てきませんね。動物2ひきが、人 間のようにレースをする、という点は、 まさにとてもアニメ的。 アニメならで はの題材といえるでしょう。 イソップには、ほかにも動物や植物 の出てくる話がたくさんあるから、ひ とつひとつ調べてみて、「これは、ア ニメにするとおもしろいんじゃないか な?」 という話をひろい出してみましょう。 さて、ウサギとカメの話を、約3分 のアニメにするとして、大まかなシナ リオを作ってみましょう。まず、こん なふうに。 ○ウサギとカメがスタートラインにつ ○競走がはじまる。 ○ウサギ、どんどん引きはなす。 ○カメは、のろのろと走る。 ○ウサギはゆだんしてひと休み。 ぐう ぐう眠ってしまう。 ○カメは休まず、せっせと走る。 ○ウサギは目がさめない。 ○カメ、ついにウサギを追いぬいて行 ○カメ、みごと優勝。 これらは、ウサギとカメの物語を映 画化する場合に、おさえておくべき必 要最少限のチェックポイントです。 いまあげた場面を忘れずに絵にすれば、 ストーリーは表現できるわけね。 こうやって、いちばんかんじんなと ころをチェックし、つぎはもっとくわ しく書いてみましょう。 ○「ウサギとカメのレース」と書いた ポスターが、木の幹にはってある。 く。 ○ウサギは大はりきりでスタートを待 っている。 ○カメは、のろのろと現れる。 ○ウサギはカメの足どりを見て、 けい べつして笑う。 ○カメは笑われてもかまわず、スター トラインにつく。 ○ウサギも並ぶ。 ○一瞬、緊張する両者。 ○スタート! さっきのチェックポイントの最初の ひとつは、こんなにふくらんできまし た。(こうやって自分のアイディアや 思いつきをつけ加えて、おもしろく表 現を考えていくのを「ふくらませる」 と言う) これはあくまでひとつの見本ですか ら、あなた自身のやり方で、アイディ アで、ふくらましてみてください。 「レースを応援する動物たちもいる方 がいいな」 「ヨーイドン、とやるスターターが必 要だ。 どんな動物にしようかな?」 「いや、ウサギとカメ以外なんにも出 てこない方がおもしろい。 スタートの 方法、ほかになにかないかしら?」 そうそう、そんなふうにして、いろ んな思いつきを書き出していきましょ う。そして、ストーリー全体を、ユニ ークで楽しいものにふくらませてみて ください。 さらに、完成したストーリーの構成 が、後半にうまくクライマックスのヤ マができるよう、 「起承転結」 の構成になるように、バランスを作り ましょう。 ウサギとカメの例でいえば、カメが 追い越し、ゴールするまで。 ここがう まくヤマにならないと、アニメにした カイがない。 「いまにも目をさましそうなウサギの そばを、スリル満点で通りぬけるカメ」 とか 「しまった!とはね起きたウサギが、 猛然とカメを追って走り出した。さあ どうなる!」とか、いろいろ考えて、 うんとおもしろくしてみましょう。 あまり話をふくらまさず、アイデア のおもしろいストーリー構成を考え て下さい。

だいじな だいじな 基礎工事

まとめてみましょう。 ●印象にのこるアニメーション作品を 作ろうとするなら、 みじかくピリッ としたものを。 ●オリジナル、原作ものを問わずスト ーリーが単純で、 内容が視覚的で、かつ変化があり (単純というのは、単調というのと は違います) アニメでなくてはできない話。であ ること。 ●そのストーリーを表現する上で、欠 くことのできないポイントをきちん とおさえながら、 ●自分のアイディアで内容をふくらま 起承転結に構成する。 ということになります。 ここまでできたら、つぎには、 ●キャラクターの設計 ●背景の設計 ●演出を考えながら、絵コンテをつく る。 などという作業がつづきます。 これらの作業の考え方、やり方につ いては、次回から順を追ってとりあげ ていきます。どれも、 忘れることのできない 大切な基礎工事です。 だいたい基礎工事なん ていうのは地味なもの で、 「こんなことやってら れないよ。はやく絵を 動かしたいなあ。描い てりゃなんかサマにな るだろう」 なんて言いたくなる ものなんだけど、そこをガマンして! これをチャンとやるか、やらないか は作品の成功不成功の分れ目、重大 "なカギ。たくさんの作品をまとめて見 せてもらう場合、こうした基礎工事の キマッてる作品はすぐわかります。印 象に残ります。 ときには、まったく ストーリーのない、ア ニメート技術だけで展 開する前衛的な作品も あり、即興で描くメタ モルフォーゼのおもし ろさひとつで、はこん でいく作品もあるでし ょう。しかしこれはか なりの技術が、すでに 身についている人でな いと、こなすのがむつ かしい。まあ、プロ向 きです。 ストーリーはあるけ れど、キチンと構成も せず、構図も思いつく まま、好きな部分から 描きはじめたりすると、 あとになって、 「しまった。このカッ トは右向きより左向き で描くべきだった」 「こんな場面、いらな かった」 なんて、泣いても泣 ききれない骨折り損、 というケースも。そん なことにならないため にも、コツコツ基礎工 事を、しっかりとね。 *** 「中級編」の第 一回目いかがで したか。 これからは、 セルワークなど の話もでてきま すので、おたの しみに。

July

キャラクターを創ろう

イソップ物語の「ウサギとカメ」 を例にとってはじめた中級編。 今 回は、前回の最後にお話した 「基 「礎工事」の説明をしましょうね。 せっかくはじめたんだから、引き つづいてウサギとカメを使いなが ら、話をすすめます。 さて、あなたの頭の中には、こ のお話をアニメにするとして、ど んなウサギとカメが思い浮かべら れるかな? 「ぼくは、マンガ的に、2本足で 立って、ユニホームやスニーカー をつけたウサギとカメ」 「それもいいけど、うんとリアル にしたらどうだろう。シートン動 物記”のイラストみたいに」 「絵巻物の〝鳥獣戯画〟に出てく ウサギみたいな感じはどうかし ら? カメをどうしようかな」 「うーんとシンプルな絵はどうか な、和田誠さんの絵のような」 ね、みんないろんなことを考え るわけ。どれもおもしろい。それ では、キャラクターをデザインす る上での注意点を考えてみましょ う。 まず、あなたのウサギやカメは どんな角度からでも描けますか? 正面、ま横、ななめ、上から、下 から、うしろから。 なぜかというと、これから物語 が進んでいくと、キャラクターた ちはいろんな場面で、いろんなカ メラアングルの中で活躍するわけ ですから。 「ななめ前からはカッコよく描け るけど、さあ……………うしろ姿なんて どんなかなあ?」 なんて無責任なことでは、キャ ラクターを自由に演出することが できません。はやい話が、 描けなくては。 さらに、この物語の最大のポイ ントは言うまでもなく競走です。 だから、ウサギもカメも、走らせ やすいデザイン、つまり、 「走る、という動きを自然に描け る、無理のない姿」 に、デザインされるべきですね。 アニメーションのためのキャラク ターデザインの大きな注意点は、 ここです。つまり、 「動かしやすいかたち」 でなくてはならないのです。ち よっと見るととてもかわいいけれ ど、顔ばっかりで手足がほとんど ない、なんていうウサギだと、お 話のカットとしては効果的かも知 れないけど、アニメートしにくく、 動かした結果も思わしくありませ んね。 マンガ的でも、リアルでも、シ ンプルでも、ここに注意して、動 かしやすく、どんな角度からでも 描ける、魅力のあるウサギやカメ を考えてみましょう。

キャラクターの条件

初級編からひきつづいて、楽し いイラストを描いてくださってい る、鈴木伸一さんは、昨年「アニ メーション・ワークショップ」と いうアニメ教室で、キャラクター の作り方の講座を受け持ちました。 そのときの経験から、鈴木さんは キャラクターの作り方の注意点を こんなふうに言っています。 「どんな角度からでも描けて、 かしやすい・・・・・・ということは、か なり単純なデザイン、ということ だよね。ものすごく複雑な姿をし てるとか、飾りがゴテゴテついた 服を着てるとか(余談だけど"ベ ルばら”みたいなのは動かすのタ イヘンだよ)ひとつのキャラクタ ーにつける色彩の色かずが多すぎ る、などというのはすべてマイナ スになりやすい。 描きにくい、てまがかかる、描 いていてもミスが多くて、動きも 見づらい。いいキャラクターはた いがいかなり省略された絵になっ てるよ。有名なキャラクターを観 察してごらん、ミッキーマウスと ポパイとか。単純化された絵が 多いよ」 「つくろうとするアニメに原作が あるなら、それをよく読んで研究 して、デザインするキャラクター の性格や特徴をリストにしてみる といい。そのストーリーの中で、 どんな動きをし、どんな感情や心 理を表現しなく ちゃならないか。 それらの動きや 表情を描きあら わし得るキャラ クターかどうか 2. みんなの好き <キャラ表> というのは、そ れを絵にしたも のなんだ。コナ ンならコナンの 立ったとこ、走 ってるとこ、足 を使ってなにか してるとこ、笑 った顔、怒った 顔、決意した顔。 作品の内容、演 出に、絵として こう答える、と いう一覧表なん だよ。キャラク ター表〉はそこ をよく見てほし いんだよね。単 に”キャーかわいい”ではなく・・・・・・」 「それから、登場人物全員がズラ リと並んだ絵もあるね。これはな んのためかというと、それぞれの 人物、動物などの大きさがひと目 でわかるため。ウサギとカメでい うなら、場面ごとにウサギとカメ のバランスがちがう、なんていう のはダメ。こうして最初にキチン ときめておくと、何人かでわけて 描いてもバラツキがないだろう?」 「そのうえ、ズラリと並べてみる と、人物それぞれの特徴がハッキ リしてくるね。人物Aと人物Bの 顔がソックリで、髪型だけ違う、 なんてのはダメ。ちゃんと特徴を つくり、顔もいろいろ種類を描け なくちゃ。 はやい話が、 "ひと目で違いがわかる" これがキャラクターの最大のチ ェックポイントだ。 キャラクター とは”特徴”という意味なんだよ」 「ぼくが昨年アメリカで見てきた 『ウォーターシップダウンのうさ ぎたち』という長編アニメは、た くさん野ウサギが出てくるんで、 耳のかたちや、毛の色に原作にな 変化を加えて、描きわけに苦労 していたね。内容はすばらしかっ だけど、アニメーターには頭の痛 い作品だったろうと、ぼくは見て いて大いに同情した。ストーリー 選びには、こんな点も注意してね」 鈴木さんのお話をまとめると、 キャラクターとは・・・ と、いうようなことになります ね。 「でも、それは必ずしもちゃんと 守られてないね。似たような主人 公っていっぱいあるじゃない?」 「どれがどれだか、こんがらかっ ちゃうほど似た主役、多いよ」 そう、それを、 「キャラクターの類型化」 と言います。 ワンパターンのス トーリー、ワンパターンの主人公 の例は、ありすぎるほどあります ね。どうしてそうなるか、という 話は、ここではしません。ひとつ みなさん、ひとりひとりで考えて みてください。そして、少なくと もかけがえのない自分の作品には つぎのチェックポイント 「類型化していない、あなた独自 のキャラクター」 を活躍させてくださいね。

風変わりな主人公

「ところで鈴木さん、主人公にで きるのは人間や動物だけじゃない わよね?」 「もちろん。むかしのディズニー 作品をちょっと思い出してみても、 花だの樹木だの、飛行機だの小舟 だのが主人公になってたな。 電話 だのソファだの、道具もキャラク ター化してあったっけ」 「たとえばアンデルセンの童話な んかをアニメにしようとすると、 マッチの棒だの、ろうそくだの、 お皿やビールびん、お月さま、な んてものにも生命を与えなくちゃ ならないわけね」 「小さい子のための絵本の絵によ くあるけど、お皿やスプーンに顔 を描き、単純な手足をつける。こ れでもまあ、キャラクター化とい える。でも、さっきの話みたいに ワンパターンになりやすいね。 古 くさい感じもする。こういう話や キャラクターをどう料理するか考 えてみるのもおもしろいね」 「それで思い出したけれど、ロシ アのゴーゴリという人の小説に、 『鼻』というのがあってね。ある 日突然、主人公の鼻が顔からとれ て、ひとり立ちしてしまうという の」 「そうそう、アニメの巨匠アレク セイエフが風変わりな凄い作品に、 仕上げてたね。鼻がかってに市役 所へ行って、鼻の持ち主より出世 してしまうんだったな」 「こういう変わった話は、アニメ 以外にまず表現する方法がないわ 読んでるみなさんは、どん ね? なキャラクターを想像しますか? ひとつ考えてごらんなさい」 「ところで、こうした無生物的な ぐう ものを主人公にすると、やはり寓 話的な感じになるね。長編を構成 するよりも、みじかくピリッと、 なにかを風刺する、といった内容 のほうがふさわしいだろうな」

表情ゆたかに、走らせよう

さてここで、最初に出てきた主 人公 のウサギとカメのキャラクタ - デザインをチェックしてみまし ょう。あなたのキャラクターは、 前後左右、上から、下から、見た ところが描けますか? 走ってい るところ、休んでいるところなど が自然に描けますか? 表情のサンプルも描いてみまし ょう。 ウサギなら、 「なあんだ、こんなノロマが相手 か。ひとっとびで優勝さ とせせら笑ったところ。 「ここまでくれば・・・・・・」 とホッとして大あくび。ねむっ た顔。 「しまった!」とあわてた顔、あ せり。走る必死の顔。そして、つ いに負けたガッカリの表情。泣き 顔…………描けますか? カメのほうは、ウサギにくらべ て無表情、ただ歯をくいしばって、 もくもくと走ることになるかな? それにしても、ラストのゴールす 前は、すこしオーバーに。優勝の 笑顔はぐっとかわいらしくしたい もの。 ウサギもカメも、ほんらいは4 本足で歩き、走る動物だけど、ア ニメでは2本足で立たせることも 自由です。でも、どっちかが2本 足、かたほうは四つんばい、とい うのはすこし変ね。どっちかに統 一しましょう。かりに帽子やスニ ーカーをつけさせるとすれば、こ れも統一しましょう。 ウサギとカメのキャラクターを ならべて描いて、大きさをきめま しょう。あたりまえのことだけど、 カメのほうが大きいとヘンよ。(ど うしてもカメのほうが大きい、へ ンな「ウサギとカメ」という作品 も考えられますが、今回はスタン ダードな感じでいきましょう)そ してかりにカメの立った高さがウ サギの肩まで、ときめたら、この 比率はどんな場面でも変えずに描 くことです。 「あのう、ぼくはどうしてもリア ルに4本足で、ウサギとカメの競 走を描いてみたいんですが、動き はどうしたらいいでしょう?」 そうね、足の動きについては、 またあらた ・わしく書きます けど、基本になる動きのポイント は鈴木さんの絵でおぼえてくださ い。 ウサギもカメも、足の踏み出し 順序はおなじです。でも、足のか たちがまったく違いますね。静止 しているときに地面にぴったりつ く足のうらの面積もちがう。 ウサ ギは軽快に、カメは体重にひかれ てねばりつくように走る、その差 が表現できれば、リアルなアニメ もおもしろいはず。挑戦してみる 値うちがあります。 一方、2本足で走らそうという 人は、初級編5回目の「走らせて みよう」のくだりを読み返してみ てください。そして、ウサギとカ メの体重の違いやスピードの違い を描きわけましょう。 両方とも人 間が走るのと、ちっとも違わない のではつまらない。 「人間のくせや動きを、動物の特 徴とミックスする」ことこそアニ メのおもしろさ、ということをお 忘れなく。 さあ、スタートについて!

August

2. お話の舞台作り

さあ、どうかしら。 ウサギとカ メのキャラクターはできましたか。 2本足で立ったもの、4つ足のま ま。マンガ的なもの、リアルなも の。いろんなウサギとカメができ たと思います。 それでは、つぎに彼がこれから 活躍する舞台について考えてみま しょう。つまり「場所の設定」で す。ウサギとカメは、どんなとこ ろを走るのでしょうか? あわて て原作を読みなおしても、なにも 書いてないわね。それでは自由に 空想してみましょう。 「野原だな。ところどころに立ち 木や草むら。はるか遠くに丘があ って、そこがゴールだ」 「でも、それでは話とスリルがな さすぎるよ。とちゅうに川かなに かあってもいいんじゃない?」 「ぼくはもっといろいろなところ を走らしてみたいな。湖もある、 山道もある、草原も、断崖も、砂 漠もあるっていうのはどうだ?」 そうそう、アニメのおもしろさ というのは、そんなふうにだんだ ん話がエスカレートすることも自 由な点にあります。3人とマンガ 的な主役を作っておけば、イソッ プさんが腰をぬかしそうな大レー スも可能です。げんに、神戸のH AGというグループは、走るだけ ではあきたらず、ウサギとカメが ありとあらゆる乗り物をとっかえ ひっかえ、手にアセにぎる大競走 という迫力満点の作品を作ってい るのです。 しかしここでは、まず基本的な スタンダード・タイプの「ウサギ とカメ」を想定して、場所を考え てみましょうね。 ○全体の場所は、野原。立ち木、 アシ、草むらなどがあちこちに。 ○コースとちゅうに、川なり、池 なり、ストーリーに変化をつけ ておもしろくできるような場所 をひとつ。 ○スタート地点とゴール地点にも 特徴をつくる。 こういう点を考えながら「ウサ ギとカメ」の舞台を設定していき ます。大きめの紙に、航空写真の ような地図を描いてみてもいいで しょう。描く作業そのものも楽し いし、でき上りをながめているう ち 「よし、ここの草むらでウサギが 待ちぶせしてカメをおどかす、と いうギャグを作ってやろう」とか 「大きな池にぶつかり、ウサギは 岸をぐるっと走る。 カメは直線に 泳いで、グッと差をつめる・・・・・・な んてのは?」 というように、つぎつぎにアイ デアが浮かんでくる、という効用 も。 「設定なんてやってられないや」 とぶっつけにアニメートを開始し た人より、結果は必ず豊富なはず。 これは「ウサギとカメ」 にかぎら ず、どんなストーリーでも、オリ ジナルでも、やって損はありませ ん。頭の中が整理できるという点 でもこころみることをすすめます。

2. 絵コンテを作ろう

シナリオもできたし、キャラク ターもできた。場面の設定もきま った。さて、ここで絵コンテを作 りましょう。これは、作品の原型 といってもいいものですから、必 ず作るようにしてください。 「アニメージュ」を創刊号から持 ってる人は、昨年の8月号(第2 回)と今年の6月号(第12回)を出 してね。どちらにも「絵コンテ」 の例がのっています。 「えーと、第2回には“絵コンテ" 第122回にはストーリーボード" って書いてあるけど、どう違うん ですか」 これがね、意味内容はおんなじ なのよ。英語でいうと“ストーリ ーボード"で、日本語が絵コン テ〟だ。なんていうと「ホントカ ナア、 あやしいぞ」って首をかし げられそうだけど、ようするに、 「シナリオの文字だけではわから ないこと…つまりカメラアング ルや、画面内でのキャラクターの 大きさ、表情。その場面のふんい 気などが、誰でもひと目でわかる ように、絵にしたもの」 です。あのディズニー・スタジ オなどでは、カットカット、 エンピツや水彩でスケッチふうに 描いたものを壁いっぱいのコルク ボードに画ビョウでとめて、どん どんふやしながら、演出の相談を します。こうすれば、誰が見ても ストーリーの流れやふんい気の変 化、キャラクターの活躍ぶりが、 見ただけでわかるから、すぐにそ の場で、 「ギャグがすくないなあ。もう少 し作ろうよ」 「場面の変化がなさすぎる。ここ で話を室内から屋外に変えては?」 などという意見がだし合えるわ け。ストーリーがひと目でわかる ボードだから、ストーリーボード。 アニメートよりこっちのほうがう まい人もいます。つまり、この人 がストーリーボードの絵を描くと、 それを見たアニメーターたちの心 の中に、 「そうか、シナリオにはただ『駆 け出す」とあるだけだが、こんな 猛烈ダッシュなのか。それじゃ、 ひとつうんとアクセントをつけて とびださせてやろう」 「シナリオでは「悲しんで泣く」 だけど、机にうつ伏せに泣いてる のか。よし、それじゃキャラクタ ーの背中を波打たせて、涙を描か ずに深い悲しみを表現するくふう をしよう」 というようなアイデアがわいて くる。つまり、技術者を触発し、 かくれた案をさそいだすこともで きる。すぐれたストーリーボード デザイナーは、そういう力をもっ ているのです。 このストーリーボードは、壁い っぱいの大きなものですが、これ を一枚の紙に5・6コマぐらいに まとめたものが”絵コンテ〟です。 もともとコンテということばは「コ ンティニュイティ」の略で、シナリ オをさらに細かく、ひとカットご とにくわしく書いたもので、ふつ うの劇映画はこれをもとに作業を すすめますが、絵になっていれば スタッフの理解がはやいのは当然。 撮影される画面のイメージが正 確に伝達されれば、機材や人員の 準備もムダがない。黒沢明もアル フレッド・ヒチコックも自分で絵 コンテを描く巨匠として有名です。 アニメの絵コンテは、 ○その場面の説明 ○どんな動きを描くか、のメモ ○その際の注意点 ◎秒数 などをキチンと書き、誰が見て もわかるようにします。さあ、こ れさえ完成すれば、それはシナリ オよりずっとフィルムに近くなり、 作品のイメージがストレートに理 解できるようになるわけね。絵コ ンテががっちりできていると、ど んなに大勢で作業するにせよミス が少なくなり、スタッフの勘ちが いによる絵のムダなどがふせげま す。たとえ自分ひとりで描きあげ る場合でも、絵コンテは「演出の ノート」として、かんたんなもの でいいから必ず作りましょう。

3. もちょっとした実験

さて、ここでちょっと実験をか ねて練習問題をやってみましょう。 つぎのシナリオを絵コンテにして ください。 ○ウサギとカメ、スタートライン に並ぶ。 ○「用意」とスターター。 ◯ドン!とピストル。 ○両者スタート! 「ええ?こんなの誰が描いたっ ておんなじ絵コンテになるじゃな い?」 ところがそうじゃないからおも しろいのです。 たとえば「用意」というと ころが、スターターの顔のアップ でなくてはならない、というルー ルはありません。 スタートライン に並らんだウサギとカメ、 そのむ こうに小さく見えてるスターター がピストルを持った手をグッと上 げる、という絵でもいい。 または、画面いっぱいにアップ になったピストル、そのむこうに、 並んで身がまえるウサギとカメ、 という構図だって考えられます。 あんまりこりすぎて、なにが描 いてあるんだか瞬間わからないと いうようなのは困るけど、ところ どころこういうひとひねりした構 図を用意すると、お話にメリハリ がきいてきます。どの画面もみん な横位置、キャラクターは全身ば っかり、ひたすら左なら左へと走 るだけ、というような構成ではお もしろい話も単調になりやすいわ けです。 例にひいてもうしわけないけど、 その昔の大ヒットまんが「のらく ろ」を、いまの若いみなさんが読 むと、なんとなくかったるいはず。 「かったるい」というと、昔の愛 読者(つまりあなたのお父さんたち) は「いまの若いものは・・・・・・」と怒 るけど、ほとんど全部横位置フル サイズ、コマ割りも大部分おなじ なんだから、ダイナミックなコマ 割りのマンガになれた人たちには、 すごく単調に感じられるのです。 つまり、演出が古風なのね。 そこらへんも考えて、絵コンテ を作ってごらんなさい。なにかで 描いて、あとで見せっこするのも おもしろい。おなじひとつのこと をイメージにするにも、こんなに 個人差があるのか、とびっくりす るはず。(もし、5人が5人ともほ とんど同じ絵コンテになってるよう だったら、あなたのおなかまはとって も平凡な人々なのよ) 「こんなに違うのか。なるほど、 字で書いたシナリオだけでは、み んなで違う画面を想像するかもし れないんだ。そこで、みんなのイ メージを統一する意味でも、絵コ ンテは必要だね」 「ぼくの考えよりきみのイメージ のほうがダイナミックだ。ひとつ、 演出をひきうけてよ」 そう、この「個人差」こそ作品 の特色、おもしろさの原点。 おなじシナリオが演出ひとつで大 きく変わる、ということを考えな がら、絵コンテを検討していきま しょう。

4. タダのものは身につかない

さて、これで「アニメ基礎工事」 のお話はひととおりすみました。 ○ストーリーをきめる ○ストーリーの大切なポイントを おさえながら、アイデアをくわ え、起承転結する構成をつくる。 ○これをもとに、シナリオを書く ○キャラクター・デザイン ○舞台設定 ○キャラクターや設定をにらみ合 わせて、演出、構図をくふうし ながら、絵コンテを作る ところで「シナリオや絵コ ンテを作るのに、映画用語や映画 技術の知識がないとダメですか? 参考書を読んだほうがいいです か?」というご質問を、よく耳に します。そりゃ、もちろん知識は あるにこしたことないけど、やた らに用語集を暗記して、カタカナ 単語を連発するのはエネルギーの ムダだし、キザったらしいからよ そう。だいいち、まちがっておぼ えたりしたら、ハジかくどころか 大ミスの原因にさえなりかねませ ん。用語で作品がよくなるはずな いしね。必要最少限の知識でいい でしょう。 映画の技法や演出についても、 すぐれた参考書はたくさんありま す。でもこれもあまり背のびして 読みすぎると頭でっかち人間がで きやすい。すべて経験といっしょ に少しずつおぼえてい くほうが自然だし、身 につきます。 それより、プロとア マを問わず、他人の作 ったアニメをたくさん 見ましょう。といって 連日テレビにかじりつ いててはダメよ。 アマ チュア・アニメの上映 会や、海外作品の上映 会、ロードショウもぜ ひ見ましょう。劇映画 もどんどん見よう。す ぐれた作品、映画史に 残る作品の感覚を吸収 することこそ、なによ りの勉強法よ。 「うわーん、お金がたらないよォ」 「テレビだけならタダなのになあ そこなのよ!タダで手にはい るものよりも、自分のふところを 痛めて得た知識って、ふしぎに絶 対忘れないものなんです。ウソだ と思ったら、ためしてごらん!

September

セルアニメの理由

さて...... 「そろそろ、セルの話もしてほし 「いなあ」 「はやくセルを使ってみたくてし ようがないのに、どうしてセルの 話が出ないんですか?」 という声がしますね。 私たちがここまでセルの話をし なかったのにはわけがあります。 それは、セルを使うと、うんとお 金がかかってしまう、ということ なのです。 この「アニメ塾」の姿勢のひと つに「なるべくお金をかけない」 ということが最初からありました。 そして、セルを使わなくても、じ ゅうぶんよい作品は作れるし、事 実、私たちが見ることのできたす ぐれたアマチュア作品は、大部分 セルを使わずにすませていたので す。 ここで、ちょっと考えてみまし ょう。アニメーションでは、 「なぜ、セルを使うのか?」 わかりますか? 意外とわかっ てないんじゃない? 「カッコイイから」なんて思って る人もあるんじゃないかしら。も ちろん、答えはノーです。 理由は「背景が使えるから」で す。 はるか昔のアニメのパイオニア たちは、アニメート用紙に、キャ ラクターといっしょに背景を描き こみました。なるべくキチンと前 の絵をトレースしたけれど、映写 してみると、動かないはずの家だ の山だのが、ビリビリ、ビリビリ ふるえます。これは人間の手で描 以上完全におなじ線はひけっこ ないのでしかたないことなんだけ ど、見てるととっても気になるの ね。 「なんとか、背景をピシッときめ たいな。いい方法はないかな」 と考えた人々は、キャラクター を一枚一枚切りぬいて、背景の上 にのせて撮影しました。これはな かなかうまくいったけど、切りぬ きのキャラクターの置きかえを上 手にやらないと、キャラクターの ほうがガタつくし、それにあまり 複雑なポーズのキャラクターでは 切り抜けない。 いろいろな失敗のあとに、うす い透明なセルロイド板を使って、 これにキャラクターを描き、背景 にのっける、という方法が開発さ れました。これならキャラクター のガタつきもないし、どんな複雑 姿かたちのものでも平気です。 やがてセルロイドは材質を現在の アセテートに変えますが、呼び名 はそのままいまでも「セル」とな っています。 セルの利点は「背景が透けて見 えること」「したがって背景に重 点をおいた演出ができること」で す。 セルの開発は、画面に奥ゆきと 立体感を増し、より劇的な演出を 可能にしたのでした。アニメ史上 の大きな前進だったのですね。

セルアニメは背景が生きる

「背景がすけて見えるってことは わかったけど、背景に重点をおい 演出ってどんなこと?」 そうね、たとえばこんなのはど うでしょう。 ○荒れ果てたゴーストタウン。砂 あらしがふき過ぎる。こわれか けのドアが、バタンバタンと、 風にあおられている。 その町並みのむこうから、主 人公がゆっくり歩いてくる・・・・・・ ○森の中の草原に、お菓子の家が ある。屋根はクッキー、ドアは 板チョコ。 ヘンゼルとグレーテルはお菓 子の家にかけよって、はじから 食べはじめる。と、ドアがあい 魔法使いがあらわれる。 こんなふうに、背景にふんい気 をたっぷり描きこんで舞台装置を つくりあげ、その上にセルに描い たキャラクターをおいて、活躍さ "せるわけです。 いろいろなストーリーを思い浮 かべてみましょう。背景が重要か どうか? お話のだいじなポイン トになるものが、いまの「お菓子 の家」のようなものだったら、セ ルアニメの手法のほうが、演出が やりやすい。 ○海底に竜宮城が見えてくる。カ メに乗った浦島、感激にキョロ キョロしながら、壮大な門をく ぐっていく。 ○ロミオは、高い石の壁をするす るとのぼって、バルコニーのジ ユリエットと抱き合う。 こういった場合も、セル向きで すね。画面正面にどうどうたる竜 宮城、手前からあらわれた浦島が だんだん小さくなって、城門へ消 えていくという演出ができます。 「えっ、それじゃセルがないと浦 島太郎の話はアニメにできないの 2. よわったなあ」 おっと、カンちがいしないでね。 セルがなくたって浦島太郎はアニ メになりますよ。ただ、さっきも いったように「背景に重点をおく 「演出」つまり「背景の上にキャラ クターをかさねて、その背景のふ んい気や特徴を生かした演出」な らば、セルアニメのほうが有利だ、 ということなの。 セルを使わない 場合は、画面の構成、演出の組み 立てにひとくふうしなければなり ません。「背景にたよらない演出」 を考案すればいいのです。 「そうすると、おなじストーリー をアニメにするのに、セルアニメ の場合と、そうでない場合とでは 演出が少しちがうってわけ?」 そうです。げんみつにいえば、 まずストーリーを作ったりえらん だりする段階から「この話はセル でなくてはならないかどうか」 チ ェックすべきなのです。 また、セルを使うか使わないか をまったく計算に入れずにどんど ん絵コンテを描いてしまうと、場 合によっては実現不可能な絵コン テになる危険性も。 しかしまず、ここでは、 「セルを使わなければアニメが作 れないというのは偏見だが、使う 場合は、セルを使ったことが生き る、つまり〝背景の生きる"スト ーリー、演出展開を心がけねばな らない」 という点に注意してください。

セルアニメは時間もお金も

6月27日に「プライベート・ア ニメーション・フェスティバル第 5回」が東京で開かれました。毎 1年、作品のレベルがぐんぐん上っ てくるのはなによりうれしく、 客もぐっとふえて、それも熱心な な観 いい観客で、楽しいイベントでし た。 33本の上映作品中、セルアニメ はわずか3本。いうまでもなく予 算の関係でしょうが、大多数の人 がセルにこだわらずのびのびと制 作していたのもよかったし、セル 作品も「ぜひ、セルが必要な内容 だったから」ということがよくわ かる作り方で、これもよかった。 特にスタジオMACKの「なん でも修理屋さん」と早稲田大学ア ニメーション研究会の "Chaser" は、しあがりもきれいだし、背景 が実にきちっと描かれ、演出の中 に生かされていました。つまり、 作った人たちが、 「なぜ、 セルアニメに?」 ということを、ちゃんとわかっ て、のみこんで、演出を考えてい るわけね。これはうれしいことで、 好感がもてました。 数年前には、描きなぐりみたい な背景の上に、アニメートもちゃ んとできてないキャラクターをの せ、セルが反射しようがへりがう つろうがいっこうおかまいなし、 話の展開もメチャクチャという作 った人より親の顔が見たくなるア ニメがあったものですが、世の中 変わるのね。 ただ、セルアニメとなると、作 品の内容にもよるとはいえ、作業 の分量はドーンとふえます。紙に サインペンでコツコツ描いていた ときにくらべると、あきれるほど。 トレス (セル) 〇彩色 ○背景(別の紙) そのうえ、必要なものも、ペン・ 絵具・筆・手袋・絵皿・筆洗・筆 やセルをふく布・セルをかわかす 棚・塗り上ったセルを整理する袋 ・・などなど、作業量も、道具も、 場所も、したがって、お金も、ド キーンとするほどふえるのよ。 だから、セルアニメは、グルー プ作品が多くなるのも当然でしょ うね。ここをイージーに考えては じめると、セルアニメのおかげで 動きがとれなくなり、計画を大は ばに縮少しなくてはならなかった り、中途はんぱな作品になったり します。 はやい話が、セルは(プ 用の大きさで)一枚40円から50円 するのよ。たった一枚で、ですよ。 それから、トレスも技術が必要 です。原画を生かすも殺すもトレ ス技術しだい。そうそう、最近と ても腹の立つ話をききました。あ るアニメのプロダクションに、 「原画はできたんだけどサ、トレ スなんてやってられないよ。おた くでやっ くんない? 安くして ヨ」 と電話したアマチュアがいる、 というのです。 プロの人々が、きびしい条件の 中で、必死で働いている現状を知 っていますか。 少しでも知ってい れば、こんなに現場の人を傷つけ る電話はできないはず。プロに手 つだわせてあげようというのも ずうずうしい。こういう身勝手な 人の作品は完成しなくてけっこう。 あなたはこんなこと、絶対しない でね!

セルアニメのカラーご用心

「セルアニメは、キャラクターに も背景にも色が使えるから、楽し いな。 上映効果も一番だゾ」 とはしゃいでると、つい忘れが ちなのは、 「塗りすぎはときにマイナス」 ということ。 キャラクターの色かずはできる だけ少なく、ハイジやラナを思い 出すまでもなく、服の色は一色の ほうが印象も強いし、手間も少な い。ほかのキャラクターと並んだ り重なったりした時のことも考え て。 そして「画面の主役はキャラク ター」。 …つまり、背景にこりすぎて キャラクターが沈んでしまうよう な絵を描かないようにね。背景は つねにおさえ気味に、キャラクタ ーとその色が画面のボイント、色 の主役になるように計算して。 ****** さっきほめた2本の作品も、こ の点ではちょっと不満でしたね。 キャラクターが引きたたないカッ トがいくつもありました。せっか こんなにきれいにできたのに、 と作った人もふしぎだったんじゃ ないかしら? くり返していいますが、ただカ ラフルで迫ろう、というだけでは 白地を生かしたサインペン一本の 作品に負けるんです。てまをなん 倍もかけ、お金もなん倍もかけ、 大勢でケンカまでして作りあげて、 印象が弱いなんて、つまらないで しょう? セルアニメというのは、こんな ふうにむずかしい問題点の続出す る技法です。決してかるがるしく 取り組まないようにしてね。失敗 したとき、失うものが大きいので すよ。くれぐれも、企画準備の段 階での、 「セルでなければならないか?」 という自分たちへの問いかけを 忘れないでください。こんなにく どくいうのは、一部の人にみょう なかたちの「セル信仰」みたいな ものがあって、 「セルが塗りたいからアニメを作 ろう」 「セルでなきゃアニメじゃない」 なんて言葉を、ときに耳にする からなのです。 最初にも書いたように、セルを 使わなくても作品は作れるし、優 秀なアニメがたくさん、セルにこ だわらずに生まれています。 「セルでなければ」 「セルさえ使 えば」という硬直した考えはすて ましょう。どうしてもセル以外は アニメと思えない、という人は、 もうアニメ作りそのものをあきら めたほうがいい。なぜならアニメ は「柔軟な、自由な心」からこそ 生まれるものなんですからね。 というようなわけで、セルアニ メが、いかにたいへんなのか理解し てくれたかな。次回も期待してね。

October



「はじまり」と背景

前回、セルアニメの話に背景のことが出てきましたね。今月は背景のお話からいきましょう。8月号でウサギとカメの活躍す舞台を設定したわね。あのとき自分で作った設定図を出してください。図を見ながら、背景を考えましょう。まずお話のはじまり、スタート地点の背景です。○ウサギとカメの大レースを知らせるポスター。○スタート地点の横幕。などという道具だてが考えられますね。これらはセルアニメであろうとなかろうと、必要です。最初にこういう画面があらわれれば誰にでも、「ウサギとカメが競走するんだな。いよいよスタートなのか」と、物語の場所や状況をスンナリのみこませることができます。「ウサギとカメの話なんてみんなよく知ってるから、そこまでしないでもいいんじゃないの?」うん、それはたしかにそうなんだけど、これは「たとえば」の話なので、例としてきいて下さい。かりにこれがオリジナルストーリだったら、ぜひ必要なことです。「この物語は、どんな場所を舞台に展開するのか?」「いま、なにが起こりつつあるのか?」ということが、予備知識ゼロの観客にもすぐにわかるように説明して、見る人の心をひきつけなくてはなりません。「もっとスケールの大きいのはどう?大草原を空から見おろす。小さく見えてる森にぐーっと接近すると、スタート地点が見えてくる、なんていうのは」これは雄大。背景をじょうずに描けば、ヘリから撮ったみたいになるでしょう。ただ、こういう大きな感じの演出は、長編に向いているから、短編はもっとキビキビと手ばやく、物語の中へ踏みこむ方がいいわね。◯どこで/いつ何が起こりつつあるか?を、見る人にストレートにわからせる。その手段に背景は重要。これ、お忘れなく。さて、ここまではセルアニメであってもなくても同じ。ウサギとカメがつぎに登場してくればいいわけだけど、前回に「背景に重点をおく演出」の話が出たので、セルアニメの演出の例をあげれば・・・。◯ポスターの前に、ヌッ!ウサギが耳からあらわれ、ポスターをながめて「いまから勝ちは決まってる」とニヤリと笑う。○スタートの横幕の前に左右からウサギとカメ登場、握手。こんなふうに、背景を演出の上で生かすわけ。このくふうがなければ、セルにする意味はないのも同じです。少々古い言葉ながら、「どっちがトクかよーく考えて」演出方法をねりましょう。

「くり返し」と背景

ヨーイ、ドンウサギ、猛然とスパート。アッという間に見えなくなったと思ったら、大草原を走る走る・・ここで、ウサギの走らせ方を考えてみましょう。ふつうにやったんでは画面の右から左へピョンといなくなり(フレーム・アウトといいます)大草原の絵を何枚描いてもたらないうえに、ウサギがちっとも印象にのこりませんね。そこで「くり返し」アニメの登場となります。これも、セルを使っても使わなくても必要な手法ですよ。画面の中央に、疾走するウサギを4枚のくり返しで描きます。5枚目に、いちばんはじめの絵にもどれるようにね。これをくり返しくり返し撮影すれば、ウサギはいつまでも走りつづけます。ウサギはすごいスピードで走ってるわけなので、背景はビュンビリュン流れます。いちいち草むらや立ち木や、小さな花などとていねいに描いても、目にとまらないどころか、チラチラして見づらいだけ。草原全体の感じを大づかみにとらえて、表現しましょう。ウサギの走るのと逆の方向へ、木も草もなびいてるように描くと、スムースに流れて見えます。セルアニメは、長い背景を作って、すこしずつズラして撮影するわけですが、うまく合わせないとキャラクターがズルズル地面ですべって見えます。プロの作品でもちょいちょい見かけますが、やはり気になるもの。背景をどのくらいのはばで移動させると自然か、いろいテストして、おぼえてください。言うまでもないことながら、長い背景がまっすぐに走るよう、撮影台には模型用の木の定規などを使って、万全の体勢を何年か前、あるグループの作った作品は、目分量で適当にズラしたうえ、だんだんまがってきて紙のへりまでうつりこんでも意に介さず、平気でそのまま出品して、失笑を買いました。無計画で粗雑な作業は「ケイベツ」という名のごほうびしかもらえない。ご用心!セルを使わない場合は、ウサギのうしろを流れて行く大草原の印象を、一種の流線で表現しましょう。くり返し出てくるわけですから、あんまり具体的な形を描くとくり返してるうちに見あきてシラケるので、気をつけて。「カメのほうはどうするの?」そうね、カメはウサギよりずっとゆっくり動くので、セルのほうの「長い背景」も、も少し具体的にもののかたちを描きましょう。こちらは背景の移動はばと、キャラクターのすべりにさらに注意。セルを使わない場合は、やはりカメのくり返し枚数いっぱいで画面を通過する草むらと石ころなどを描きこんでおく、というテがあります。くり返されるので、なるべくあっさりした気にならない形を描きましょう。こうしてウサギとカメの対照的な走りっぷりをかわるがわる見せれば、両者の間がぐんぐんひらいて行くのがわかります。じょうずに、そしてダイナミックに走らせましょう。

背景と「時代考証」

さあ、そのほかにどんな背景が必要でしょうね。ただ走ってばかりではあきてきます。ウサギがひと休みする場所、ねむってしまうのはどんなところ?ゴールはどんな風景?いろいろデザインしてみましょう。「ぼく、ひとつアイデアがあるんです。ウサギとカメの競走をイソップが見ていて、お話を書きました、というストーリーなんだけど、「どうかしら」なるほど、これも考え方のひとつね。おもしろい作品になりそうです。この場合は、ちょっと時代考証が必要ね。「時代考証って?」それはね、イソップという人物が出てくるとなると、その物語の場所や時代が、いつでもどこでもいいというわけにはいかないでしよ。イソップは実在の人物で、ギリシャの人。紀元前600年から550年ごろに生きていたといわれています。これを勝手に「マンガだからかまうもんか」なんて、背広を着た人物を描いても、イソップには見えません。ギリシャ時代の服装を美術史や服装史の本で調べましょう。ウサギとカメが走るとちゅうの草原に、神殿の廃墟みたいなものが見えてもいいし、折れた大理石の柱の根もとでウサギがひと休み、というのもいいでしょう。これらも美術史の写真集を見たりして、資料を集めて背景を作りましょう。イソップが現代のルポライターみたいに、一生けんめい競技の印象をメモして・・・・・・なんて場面を作るとすれば、そのころノートやエンピツはないでしょ?どんな筆記用具を使って書くかしら。これも調べなくちゃ。こういう調べる作業を「時代考証」というのです。マンガだから、イソップがタイプライターをたたいていても、もちろんかまいません。でも、その場合も、「ほんとは、こういう筆記具を使って字を書いたんだ」ということをちゃんと知ったうえで、さらにタイプライターそのものも正確に使い方や構造を知って、マンガ化してください。タイプライターにだって、種類がいっぱいあります。19世紀末の「シャーロック・ホームズ物語」のイラストに、現在使われている携帯用タイプライターの絵を描いて平気でいるイラストレーターのまねをしてはダメよ。「いろいろ調べるのってめんどくさいや。昔の筆記具なんてわかんないから、ギャグだということにして、万年筆で描いちゃえ」これが、いちばんいけない態度なのよ。これは「逃げ」になるんです。こういう姿勢ではギャグも不発になりやすい。○設定に時代・国別などの要素が加わったら、めんどうがらずにしつこく調べること。これ、ゼッタイ損はない。作品のリアリティはふえる、調べてるうちにストーリーやギャグのヒントもいろいろつかめる、知識は残る、ひょっとすると歴史の試験なんかに、思わぬ強みを発揮できるかも知れませんぞ。いやがらずにがんばろう!

背景の「表現力」

さて、ここでちょっと考えてみましょう。「背景の効用」ということ。「背景によって表現できるもの」はなにか?まず、背景に描きこまれるものはなにがある?きまってらあ、景色でしょ?」そう、つまり風景ね。山、森、平原、砂漠、海、池、川などの自然。街や村、家庭や室内、乗り物の内部などもあるけど、つまりこれらを描くことによって、前にも書いたように、○物語の展開するのはどんな場所ということがひと目でわかりまさらに「その場所」の「時間」や「温度」も表現できます。背景がきちんと描かれていれば、そこがいま夜明けなのか、まっ昼間なのか、夜なのかがわかります。春夏秋冬の季節感も、もちろんあらわせるし、的確な表現技術によっては、暑さ寒ささえ感じとれるし、その場所の大気さえ察しられる背景表現だってあるのです。「す。まあ、まだそこまでいくのは夢にもせよ、背景は○物語の展開する場所の自然状況と時間を表現できるということ。たとえば、夕焼けに染まった砂漠と、夕陽をあびたお城がていねいに描かれ、その手前に立った主人公の影法師が砂の上に長くのびている。こういう画面がつくれれば、「きょうも日が暮れる」なんてセリフを使わなくても、夕方だということがわかるし、主人公の心の中も、うかがえる画面になるのです。雪におおわれた山道を肩をすくめた主人公が通りかかれば、なにも説明しなくても、冬の寒さは見る人にすぐわかるはず。そのうえにほそい三日月が描いてあれば、いっそうの寒さと不安も伝えられるはずです。セルアニメの場合は、これらの背景によって表現された舞台の中へ、直接、主人公を登場させて活躍させることができます。セルを使わない場合は、背景で場所と状況を説明し、主人公は切り紙でのっけるか、またはまったく背景と別に活躍させながら、その状況を感じとらせる「モンタージュ」という映画技法を使うか、どちらかになります。「そうすると、やっぱセルアニメのほうが有利みたいだけど・・・・・・」そうね。それでは、こう考えてください。「場所、状況の的確な表現を必要とする複雑な内容のお話こそセルアニメの真価を発揮する」「セルを使わない場合は、こうした条件にとらわれずにすむ、自由なストレートな題材を選ぼう」このほか、初級編でもふれた「描かないアニメ」の場合、大型のグラビヤ雑誌の風景写真やポスター、カレンダーなども利用してみましょう。ロケに行ったような効果が出ますヨ。ただし、他の部分とチグハグにならないよう演出にくふうをこらしましょう。※次回は、自然の描き方で、水の表現方法についてお話します。

November



雨が降ったら

ここのところ、アマチュアの人たちのつくりあげたアニメ作品を見せてもらうチャンスが多かったのですが、みなさんとてもいいセンスで、のびのびと制作しているのに感心しました。また、苦労しながらも、つくりはじめた作品をなんとか最後までまとめあげるという姿勢がどの作者にもあって、これもうれしいことでした。最後までまとめる、というのは、いつも私たちがうるさくくり返す「はじめる前に計画をキチンと」が守られているからこそ、アニメづくりもだんだんしっかり地に足がついてきたようで、鈴木さんも私も大よろこびしています。さて、今月もウサギとカメに競走をつづけてもらうわけですが...。ウサギとカメがエッサエッサと走っているところへ、ポツリとひとしずく。オヤ?と見上げた顔へ、またポツリ。あっ、こりゃいけない、雨だ、とあわてるまもなく、ザァーッと大雨・・・・・・。「あのお話、とちゅうで雨なんか降ったっけ?」「あんまりきかない話だなあ」そこがそれ、アニメはなにをやろうと自由自在。もし大雨が降ってきたら、レースはどうなったでしょうか?「あっ!真相がわかったぞ!カメの勝因はウサギのひるねなんかじゃなくて、雨だよ!カメは水に強いもんね!」ほら、そんなストーリーだって作れるわけ。まあ、こんなふうにお話の展開の中に雨や雪、台風などの自然現象があらわれるのは、めずらしくありませんね。それから池やプールの波紋、小川のせせらぎ、滝の水しぶき、海の波、などの水の変化する動き。たき火の煙、暖炉の火、火事、活火山の噴煙、大噴火などの、火の変容、動き。これらもしっかり描けなくてはなりません。いくらキャラクターがカッコよくスカッと動いても、こうした部分がギクシャクしていると、作品も演出も安っぽく見えますよ。とかく、動画というとキャラクターを動かす作業ばかりが頭に浮かびますが、そればかりではないのです。手間を食う割にじみで、キャラクターの背後に沈みがちなこういう動画を、○エフェクト・アニメーションと呼びます。プロの中には、こうした動きを得意とする人たちがいて、「火はあの人にまかせよう」「滴は彼の十八番だ」というように、それぞれのプロダクションで評価され、重要な場面をより効果的に描きあげているのです。今月は、この「エフェクト」のお話をすることにしましょう。

水の性質

みなさん「表面張力」ってなんだか知ってますか?「知ってまーす。水の性質です」そのとおり。どういうことかというと、「水には、表面積を最少にしようとする性質がある」つまり、ちぢまろう、ちぢまろうとする性質がある、ということです。コップやバケツに入ってる水の表面は文字どおり水平だけで、これをバシャーッとぶちまけて空中にとばし、特別なカメラでその一瞬をとらえてみると、あっちこっちで大小の水玉ができているのがわかります。空気の中に投げ出された水は、表面をできるだけちぢめて、球体になりながら落下しょうとします。雨上りの木の枝を想像してみてください。葉っぱの先からポタリポタリと落ちてくる、しずくの動きを考えてみましょう。葉っぱの先端にたまった水は、すこしずつ外へこぼれ出てきますが、すぐには落ちません。やはり表面張力で、球体になろうとしながら、葉っぱの部分にしがみついています。けれど、いよいよ外へとこぼれでてきて、その重みがぐっとふえると、プツンとちぎれて地上へ落ちてゆきます。ちぎれたとたんに、ちぎれた部分は球体になります。葉っぱに残った水の先端も、球体に。そして、またジワジワとこぼれだし、重みをまし、ポタリとちぎれ落ちます。鈴木さんの絵をよく見てね。水の持っているこうした性質はつねに変わりません。水道の蛇口からポッタン、ポッタンと落ちるしずくも、野中のけん家の天井からジワジワポタリとひたる雨もりも、おなじ法則で落ちるわけ。こまかく考えれば、傾いたツボからドッと流れおちる水も、滝の水も、みんなこの性質をふくんで落ちつつあるのです。だから、ツボからあふれ出てくる水の先端はやっぱり球体をたくさんふくんでいるわけだし、滝の水がおちてはねる水しぶきも、それぞれ球体になってとびちるのです。アニメートの場合、これらの水の性質、こまかな動きをどれぐらいこくめいに描くかは、その作品の内容、様式にも左右されますが基本として、「水にはこういう性質がある」ということを、じゅうぶん知ってアニメートにとりかかるようにしましょう。ただなんとなく、「いままで見たマンガでは水をこんなふうに描いてあったっけ。それでいってみよう。」というような、イージーな考え方をしないこと。ことは水にかぎりません。初級編でやったように、引力や慣性の法則がキチンとのみこめていれば、描いた絵には説得力が加わり、だれの目にも自然に「よい動き」としてうつるはず。「さっそく水滴の観察だ!」それはけっこう、ただし水道の水をむだにしちゃダメよ。節水に気をつかってね。

雨・雪の描き方

さて、ポツリポツリとウサギの頭や手におちた雨つぶは、いつか草原いちめんに降りだした……「あのう、雨もやっぱり水滴でしょう?ひとつぶひとつぶ落ちるところを描くんでしょうか?」そんなことはありません。雨は落下スピードが速いので、糸のようなほそい線になって見えますね。あのとおりでいいのです。この雨の表現にはセルアニメがべんりですね。雨を描いたセルを動画の上にのせればいいのですから。セルを使わずに制作していた場合も、雨や雪のシーンにはセルを利用したほうが効果的だし、作業もらくです。数枚のセルに雨や雪の動きをくりかえしで描き、動画に重ねますが、注意することは雨や雪がハッキリ見えるよう動画や背景の色との対比に気をくばること。そして、雨や雪の降り出すカットのいちばんアタマから、なにも描いてないセルを一枚かさねて撮りはじめること(かセル)。というのは、絵の上にセルが一枚のっただけで、肉眼ではわからなくても、カメラのレンズやフィルムにはぐっと差がついて、そのため、動画に雨が重なったトタンにパッと絵の色が変わるんです。そこで、まだ雨が現われないうちから、無地のセルを重ねておいて、そのカットの中での色を統一するわけね。さて、なん枚かのくり返しで雨を描きます。ちょっとななめに降らした方がそれらしい。斜線の角度はいろいろに変化したほうが、あとで映写したとき、雨らしく感じられます。タテにながーいセルに、雨の斜線をたくさんひいて重ね、画面下へと少しずつズラシて撮影する、という方法もよく使われます。この場合はうしろが風景など動かない絵のほうがミスが少ない。長いセルをまっすぐ、ヘリが入ってこないよう引っぱるのはむずかしいので、しんちょうに。セルの反射にもじゅうぶん気をつけて。雪の場合は、白い雪片が画面の上から下へチラチラと通過しますから、まずアニメート用紙に、雪の一片が通過するコースをひきましょう。このコースの上を、ひとつの雪片が舞いおりていくわけ。雪の降りていくスピードを考えながら、この線を分割します。(ここはイラストをよく見てね)画面の上端からスタートした雪片が6コマ目まできたら、おなじコースをつぎの雪片がスタートできるように、つまり6枚で雪の動きのくり返し動画を作るのです。1枚2コマずつ撮れば、雪はいつまでも降りつづけます。降り方に迫力がほしいときは、手前に大つぶの雪、遠景にこまかい雪、とくり返しセルを2種類かさねるのもいいでしょう。(この場合、さっきのカラセルは2枚になります)雪の結晶が舞いおりる、という幻想的な場面には、回転しながら落ちる結晶の絵と、こまかな雪のくり返しセルを重ねると美しくなります。いろいろ、くふうしてみてね。

水で描く詩

思わぬ大雨のおかげでビショぬれのウサギは、やっと雨があがってホッとひといき。草の葉っぱの先から、のこりの雨だれが、池のおもてにポトンと落ちて、きれいな波紋がひろがりました・・・・・・そう、この波紋も水の表現のひとつですね。水滴、小石、カエルなどがボチャンと落ちたりとびこんだりしたときは、その物体の大きさにおうじて水しぶきがたち、それから同心円がひろがります。同心円は外へ外へと散って、やがて中心からもとの静かさをとりもどします。「こういう作品も作れるよ」と、鈴木さん。「アニメート用紙をただ撮影すれば、これはまっ白なだけで、なんでもない。ところが、そのまん中に突然しぶきが上がりカメがバチャンととび上る。カメがもぐったあとは波が静まり、波紋が消えて、もとの白紙。でも、これが水面だという表現がされたわけだね。「つづけて、水すましがくるくるまわって通過する。そのあとに葉っぱが一枚、舞い落ちてきて水面に波紋をつくる。流れていったあとに、さかさまに人の影がユラユラとうつって、消える。おもちゃのボートが水を切って走っていく「こんなふうにすれば、セルを!枚も使わずに、背景も描かずに、水のおもての世界だけで、まるで[.....俳句のようなムードのある作品がそれには、水の性質をつくれる。よく観察して、自由に動きを描きこなせるようにしておくといいんだね」「ひとつの物の性質をじゅうぶんのみこんで、自分の作画技術の財産にするのは、だいじなことだよ。挑戦するねうちがあるね」水の動きはこのほか、海の波や川の流れがありますね。それは次回に。今月はとにかく鈴木さんの絵をよく見てください。描くことが最上の上達方法ですから。では、また来月!

December



北斉の大波

エッサエッサと走りつづけたウサギとカメは、今日、海辺にやってまいりました。先月の「水の描き方」のつづきで、波の描き方とまいりましょう。ふがくみなさん、北斎の「富嶽三十六景」という浮世絵を見たことがあるでしょ。山道、街道、いろいろなところから見た富士山を描いたダイナミックなシリーズですね。この中の、大波の絵。ものすごい波のむこうに、小さく富士山が見えてる絵がありますね。手前には漁船が波にもまれていまにも沈みそう。この波を動かしているCMがありましたね。画集があったら、ひとつこの大波をよく観察してみましょう。これを動かすのはなかなかたいへんな作業です。いまにもくずれ落ちようとしている大波の波がしらはまるで、つかみかかる怪物の爪のように何十にもわかれて、とび散ったしぶきの水滴も無数に描かれていますね。この絵は世界的に有名ですから「動かしてみたいな」と考えたアニメーターも何人かいたようですが、波のかたちの複雑さにダウンしてしまうらしく「やってくれた!」という表現にはまだお目にかかっていません。日本で最初に挑戦したアニメーターはかつて私や鈴木さんとおなじ動画プロダクションにいた人なので、毎日その苦闘ぶりを眺めることができましたが、30枚ぐらいのくり返しで完成するまで約1か月の戦いだったようにおぼえています。手前の舟も波にもてあそばれながら、ちゃんと漁師をのっけて動いていました。その後、方々で「北斉の大波」がアニメートされるようになりましたが、どれもいまひとつグッとくるものがありません。さっき書いたアニメーターのーか月がかりの作品にしても、動いたことはたしかに動いたのですが、たった一枚のあの浮世絵の波がもっているすさまじいパワーが消えてしまっていたのですね。あんなに苦労したのになぜだろう、とてもふしぎだったことをおぼえています。どうですか、みなさんのなかに「よーし、それならひとつパワフルに動かしてみてやろう」という挑戦者はいませんか?プロの人たちは予算やスケジュールとにらみ合わせて仕事をするので、そんなにノンビリやってはいられませんが、アマチュアはその点、時間だけはタップリありますね。こういう気の遠くなるような作業だって、ゆうゆうマイペースでやれるはず。どう?やってみませんか?「よし、ウサギが海辺で、ああいい気持ちだとひるねをしていると、ドドーンと大波がきてビショぬれということにしようかな」そうそう、そんなふうに演出を考えてみてくださいね。

波の研究

それでは、いきなりあの大波にとりかかる前に、波というものの性質を調べてみましょう。波はどうしてできるのか?いろんな波がありますね。鏡のような水面に、小石をほうり込むと、波紋がまるくひろがります。池や湖をモーターボートが走れば、舟のへさきに押しわけられて波ができます。海岸へ行けば、沖からたえず大波小波が寄せてきます。これは風によるものですね。おふろのお湯を口でフーッと吹いてできる波とおなじです。波は水の表面で動いていますが底のほうは静かです。岸に向かって走っていく波も、水自体は進まないで、波の「動き」がつぎからつぎへと水面をつたわって行くだけですね。水にうかんだアヒルは、波がきても、波のまにまに上がったり下がったりしているだけで、波につれられて岸に寄ってくる、ということはありません。わかりやすい実験をしてみましょう。ほら、なわ飛びのなわを、地上すれすれに持って、ヘビみたいにウネウネ振ってみたこと、あるでしょう?かなりの波ができたけど、なわそのものは進んで行ったりしませんね。波型の動きが走って行くだけです。池にゴムマリを浮かして、別のところをかきまわす。波のまにまにゴムマリは上下するけど、波に押されて岸へスーッと来る、ということはありません。さっきのアヒルとおなじです。波の動きがだんだん岸に近ずいて水底が浅くなってくると、波の勢いはおさえられ、スピードがにぶります。そのぶん水は盛りあがり、それでも進みつづけようとして、くずれ落ちます。これが海岸の「波打ちぎわの波」です。太平洋のまん中では、どれほどすごい台風のまっただ中でも、浮世絵の大波みたいな形の波はできません。山形の三角波がつぎつぎに生まれて行きます。その波が、陸地に接近して底が浅くなってくるとひときわ高さをまし、陸地に向かってドドーッとくずれ落ちる。北斉はやっぱり台風シーズンに海岸に立って、じっくりと波を観察し、絵にしたのでしょう。サーファーはこの波の研究をするわけね。ボードに乗って沖へ出ると、いい波が来るまで、やっぱり上がったり下がったりしながら待っています。そして、これと見さだめた波に乗り、岸に向かって走り出すわけ。ま横から見たかたちの波を何枚かのくり返しで描いてみましょう。最低3枚ぐらいでも「波ですよ」という感じのパターンはできますようかんだアヒルが上下しているのを描きこんでみましょう。ドドーンとくずれる波はやはり3秒ぐらいのくり返し。これをマスターしてから「北斉の波」に挑戦を。どういうボリュームの波を、どのくらいの枚数で描けば北斉のパワーに近ずけるか、ひとつじっくり研究してみてください。やりがいがありますよ。

火を描く

大波をかぶってビショぬれになったウサギは「これじゃたまらないよ」とあたりの流木をあつめてたき火をはじめました。煙がもくもく立ちのぼり、やがてあたたかそうに火がもえ上がります。煙も火も、よく登場する効果的自然ですね。たき火、暖炉の火や煙突の煙、ロウソクの炎に、マッチの火、それに火事。いろいろなストーリーの中に、火は大切な役目をはたしています。ロウソクをつけるチャンスは少なくなったけど、万一にそなえて用意してあるのをちょっとともし観察しましょう。(えっ、おたく1本もない!?!?!困るわねえ、買っていらっしゃい)ロウソクの炎は、火のかたちの中でもいちばん単純で基本的なものです。上がとがって下がふくらんで、しずくのような形ですね。全体に白く光っていますが、シンのまわりだけ青いでしょう?そして、わずかな風にもゆらゆらしますが、じっと静かにしていても、下から上へ、炎は息をするように動いています。熱気が立ちのぼっているわけね。ですから、ロウソクを描いて、しずく型の炎を描いて、そのままではあんまり燃えているように見えません。すこし大げさに炎をのびちぢみさせると、元気な火に見えてきます。ロウソクのしんはまっすぐ立っていますから、炎もきれいにま上にしずく型になりますが、ま横にねかせた棒切れが燃えているという場合は、炎も複雑です。横にひろがるだけでなく、よく燃えてる部分、火力の弱い部分がまざるので、炎の先がいくつにもわかれます。その棒切れが何本もつみ重なったものが「たき火」や「暖炉の火」です。いっそう複雑になった炎は、どんな形になるでしょう?絵を見てください。でも、その炎の中には、いちばんはじめの「しずく型」がやっぱりちゃんとふくまれているんですね。そして上へ上へとたちのぼる熱気が、その「しずく型」を押しあげ、大きくのびちぢみします。熱気もボリュームもあるあたたかそうたき火は、何枚ぐらいのくり返しがいいかな?たとえばいちばん簡単な絵なら、2枚でもたき火には見えます。ラクガキみたいに単純なキャラクターが活躍する場合なら、かえってこういう火のほうがピタリかもしれません。実験してごらんなさい。でも、すこし複雑な、たとえば鈴木さんのイラストのウサギくんぐらいまるみやあたたかさのあるキャラクターだと、これではちょっとものたりませんね。日本の民話や神話をアニメにする場合など、たき火やいろりの火はよく出て来ます。お話の中で重要な役をはたす火もあります。カッコいいキャラクターが持ったタイマツの炎がいじけていたり、山賊や鬼どものかこんだたき火がうすっぺらでは演出もぶちこわしひとつ練習してみましょう。ところでたき火の観察にはくれぐれも火の用心を忘れずにネ!

光・影・風

先月と今月、エフェクト・アニメーションのお話をしてきましたが「水」と「火」のほかにも効果的な手法で大切なものはまだまだあります。たとえば、さっきのたき火にあたっている場面、ウサギの顔やからだの火に向いてる部分に強い光があたって、あとの部分は影という描き方がありますね。夜だったら、もっとはっきり光と影ができるでしょう。そして、炎のゆらめきにつれて、その光の部分、影の部分が変化するとすれば、画面の実感と立体感はすばらしいものになるでしょうね。10月号をちょっと出してみてください。いちばん終わりに、夕日の丘に立ったカウボーイの絵がありますね。こんな場面に登場して来たキャラクターは、イラストのカウボーイや、イヌくんみたいに影をきかせ、足もとの影法師もきちんと描いて動かせば、二次元の絵とは思えない画面の奥ゆきが表現されますよ。光と影といえば、雷の場合もそうです。ピカピカゴロゴロゴロ、ドドーン、なんて場面の稲妻は、画面を明暗にクッキリわけて稲妻を描き、一方、稲妻に照らし出されたキャラクターは一瞬シルエットになる、という絵を交互に並べると、迫力十分。このほか、風や嵐があります。ただし、風の描き方なんてものはありませんね。風は目に見えません。風にあおられ押されてひるがえる旗、衣服、カーテンなどの動きを描くことによって風は表現されます。そういうものが何もない野外なら、草や木がゆれます。もっと風が強くなれば、木の枝が大きく動き、ちぎれた木の葉が吹きとばされて行くでしょう。砂ぼこりが舞い上って飛ぶ、という描き方もあるでしょう。風にさからって歩こうとするキャラクターの帽子が吹きとばされたり、風に押されてからだをちぢめ、むりやり前進しようとする動き。ウサギくんでも耳がはためき、シッポが風に吹きちぎられそうにゆれる中を、目をつぶって進む、ということになるかもしれませんね。さて、あまりの強風に、ウサギくんはついに地面にかじりついて、進むことにしました......。というところで、来月はいろんな動物の描き方のお話をすることにしましょう。

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